いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

INAX QX-100 に別のドライバーを載せてみる (後編)

INAXのスピーカー「QX-100」に、なんとかして別のドライバーを載せられないかと整備してみた所感。

※ この記事は、前後編の後編にあたるものです。 
※ 前編は下記より↓
 

整備

 

リードの延長

これくらいなら引き直せるか? 適当なケーブルから銅線を数本引き抜いて撚ったものをリード代わりにしてみる。

一応導通はあるけど、イマイチだな
無理やりはんだ付けするも、ある程度はんだを盛らないと切れてしまう。接続がOKでも、ボビンがギャップに収まるさいに盛ったはんだが干渉するかしないかの微妙な位置。うーん。
 

銀入り接着剤の試用

以前SNSで取り上げられていて興味本位で入手した、導電性接着剤をここで試してみる。

アマゾンのアヤシイ販売元から数百円で購入
これ、銀粉末が混ぜられたペーストで、塗った部分が通電するという代物。そんなウマい話があるのかねと思いつつ、もし本当であれば今回のようなケースでは打ってつけ、満を持して登場というわけである。

たくさん塗ったほうが抵抗値が下がるのかな?
適当に塗る。ラッカー系塗料のようなシャバシャバ感で、粘性は意外と低い。
ダメだろうなと思いつつ淡い期待も抱いていた導電性接着剤。結果としては、やはりNGであった。塗った直後、30分後、24時間硬化後いずれも導通は無し。

まあ、こんなもんよね
既存のパーツを利用した修理は、なんとなくイケそうな気はしつつも、結局自分の技術では対処が難しいとして見送ることとする。
 

代用のドライバー入手

新しい汎用のボイスコイルと、ついでにコーンとエッジも一式交換してしまおうかと仕入れ値を計算してみると、なかなかの金額。あともう少し積めば新品の現行のユニットが買えてしまう。そもそもそこまで手間をかけたとしてもオリジナルの特性とは別物になるのは明白で、はたしてそこまでする意義は? となる。
というわけで、新しいドライバーに載せ替えてしまう運びとなる。
 
新ドライバーは、フォステクスの「FE103NV2」。定番品である。
 

パッキンの新調

オリジナルのX-103と同じ10cmコーン型フルレンジではあるけれど、X-103のほうがひと回り大きく、振動板以外はむしろ現行の12cm級とほぼ同等の図体をしている。

左:X-103 右:FE103NV2

グレードが違う。カネかけて作ってたんだな……
そのため、X-103用に設計されたエンクロージャーにFE103NV2をそのまま取り付けると、開口が大きすぎてフランジ周りが空隙だらけになる。FE103NV2に付属するフォーム製パッキンは、まったく使い物にならない。

フランジもサイズが違うけど、ネジ穴の位置と穴径は合う
そこで、隙間を埋めるためのパッキンを新たに用意することになる。ホームセンターでCRゴムのシートを入手。

パッキンとして扱いやすく、お財布にも優しい
これをX-103のフランジ外周に沿って切出し、ドライバーを固定するさいに筐体側に貼るだけ。

文鎮かと思うほど重いなX-103

円のくり貫きはコンパスカッターで
 

塗装

試しにドライバーを載せてみると、パッキンで誤魔化せるだろうと思っていた釉薬の未塗布の部分がけっこう目立ってしまうことが発覚。

ここはフランジが擦れて剥げたわけではなく、元から塗られていない模様
言わずもがな釉薬なんてものを作る技術は持ち合わせていないので、黒の油性塗料を使ってタッチアップ。

曲線用マスキングテープを適当に

マスキングを剥がした直後
これも急きょホームセンターで入手したものだけど、ここは車用の塗料で似たような色味のメタリック系やマイカ系塗料を使っておけば、よりそれっぽくなっただろうと後から気付く。
しかし、ここに先に作ったパッキンが乗っかると、塗装した部分はほとんど気にならなくなる。白い地の色が見えているよりもだいぶマシ。ここは塗っておいて正解だった。

目の錯覚で「影」として認識されている感じか
 

パッキンの再調整

新しいドライバーを固定して音を出してみると、パッキンがあってもフランジの下部のみ空気が漏れでてきてしまう。

下部のみ、フランジで押された跡がほとんど付いていない
ここはゴム製パッキンのさらに下にレベル調整用の薄いフェルトシートを設けて、大音量を出しても空気が漏れ出なくなることを確認する。

困ったときのフェルトシート
 

前面デザインの所見

パッキンについて
ひとまず換装完了。ただ、見た目に関してはもう少し洗練させたいところである。

整備後の姿

可もなく不可もなく、って感じ
既存のドライバーのフランジと同サイズに作ったゴム製パッキンは、意図したとおりだし遠目で見れば悪くはないけど、近くで見ると垢抜けなさを誤魔化しきれなくなる。

いかにも「なにかを塞いでいます」的な雰囲気がある
デザイン性を上げるなら、この上にさらに化粧用のバッフルプレートを設けてフランジに被せることで、パッキンを隠してしまうのが良さそう。ただ、それなりの強度と美麗な質感が求められる。材質が紙だと経年でフニャフニャになるし、木製はこのスピーカーにおいてはなにか違う。やはりここは金属がベストだろうけど、それは外部に委託して作ってもらうしか現状手が無いし、その資金もない。ここで完成とするか。
フランジの色について
上述と関連して、ドライバー換装後はオリジナルの「目玉感」みたいな強烈な印象が薄れている。いいかげん見慣れたというのもあるだろうけど、フランジが銀色から黒色に変わったことが思いのほか印象の変化をもたらしているような気がする。
全身ブラックのボディにホワイトコーンがひとつ浮かび上がる様は、こちらのほうがコントラストが上がってより鮮烈になりそうなものだけど、そうはならず、逆に落ち着いてしまった。あのギョロ目は、シルバーの縁取りがあってこそだったのだ。
 

FE103NV2搭載後の音

音を聴いてみる。といってもFE103NV2は別のスピーカー整備でも使用しており、その音の傾向はある程度知っているつもり。ここでは卵型エンクロージャーに載せた場合にどんなふうに聴こえるかを俎上に上げる。
 
まず、音の広がりが尋常ではない。点音源の定位感を保ちつつも、上下左右満遍なく開放感のある広がりを見せる。ひと回り大径のドライバーが鳴っているように感じる。
音自体は、クセの無いナチュラルな質感。クリアで見通しが良く、混濁するところがほぼ無い。解析力はそれほどではないけれど音をつぶさに拾い上げる感じなので、ソースにあるひずみなどもそのまま再生してしまうところもある。
FE103NV2は高音にやや寄ったバランスという認識を持っているけれど、このスピーカーにおいてはそこまでではなく、むしろフラット寄りに聴こえるのが不思議。
明瞭であってもくどくなく、耳にしっかり届く音は豊かでまろやか。音が広範囲に広がるためか、附帯音のようなディレイの掛かった独特の雰囲気が若干あるけれど気にならない程度。これはおそらく自分のリスニング環境によるところだろう。

いや、これスゴイわ
低音の量感は控えめ。バスレフダクトの空気の流量はしっかりと感じるけれど、増幅された音はそれほど出てこない。しかし鳴っていないわけではなく、レンジ感としてはわりと下の帯域までカバーしているように聴こえる。よほど低音を求めるのでなければ十分といえる。
 
これがラウンドバッフルの性能なのか。一発で気に入ってしまった。
定在波ナシ、境界波ナシ、共振ナシの卵型陶製エンクロージャー、恐るべし。
 
周波数特性を見てみる。

周波数特性(FE103NV2搭載)

上図の元波形
およそ聴感と一致する。綺麗な特性だ。高音域はやはり突出した部分がなく、フラットどころかむしろカマボコ寄りで、自然な減衰がある。FE103NV2ってこんな特性だったっけ? 低音に関しても聴感のとおりなのだけど、エネルギーと余裕は蓄えられているようで、置きかたによってはかなりしっかりとした音が出せそうな雰囲気がある。
 

まとめ

INAX、風変わりなゲテモノではなくてオーディオとして良いものをちゃんと作っていたんだな、というのが率直な感想。正直、ラウンドバッフルを舐めていたところもあって、まさかここまで良質な音を醸すとは思っていなかったので、手に入れられたことが素直に嬉しい。

オリジナルのドライバーの音も聴いてみたいな
それはそれとして、当時の資料を見るかぎり、自分たちのかかわる分野とは異なる領域について外部と連携して研究開発を進められるほど、企業ひいては日本に余裕があった時代だから誕生できたのだろうとも思う。タイルの世界的なシェアを持ち、建築音響の分野に関わる漸次的な段階を踏んだにせよ、アイディアがあってもそれが自社の儲けに繋がる見込みが無ければ、現代ではまず表出することはないだろうし。現代ではこういったプロジェクトは国外のユニコーン企業や的を絞った新興企業などでないと立ち上げが難しいように思う。

手間が掛かりすぎるから、もう二度と作られることはないんだろうな
気に入ってしまったので、しばらくは手持ちの古い音源などを聴き直す時間が増えていくことだろう。
 
終。
 

(参考) 発売当時のレビュー記事抜粋

QX-100発売当時の各オーディオ雑誌に掲載されたレビューから、音に関する部分を抜粋し以下にまとめる。
※ 各単語の表記は、なるべく雑誌掲載のものをそのまま引用していますので、現代と異なる場合があります
 

季刊ステレオサウンド No.82 1987春号

アバンチュールへの誘い 早瀬文雄
(前略)
とにかく、意外なほど落ち着いた落ち着いた、しっとりした音でまず驚いた。そのエッグシェイプのエンクロージュアのメリットで、弱音時にバッフル効果の弊害のない、素直な音場感が聴きとれ、フルレンジながら中域の張り出しのない耳あたりのよさはセラミック製エンクロージュアのリジッドなつくりによるところが大きいのではないかと思えた。にごりのない静寂感が生き、特に、聴取位置から約1.5メートルの至近距離での試聴では、あっと驚くほどの音の広がりが得られ、これはなんとしても壁からぐっと離れた、自由空間に置いて聴きたいと思った。と同時に、狭い部屋でも充分に音場感のモニターができるであろうことが確認できた。なにしろラウンドバッフルどころの効果ではない。この完全なエッグシェイプにより、スピーカーは理想的な点音源となり、球面波が水平、垂直あらゆる方向にふわりとひろがる。スピーカーユニット周辺から発生する不要な干渉波が著しく少なく、かつて体験したことがないような、音の波紋のひろがりが味わえた。
(後略)
 

別冊 FM fan No.54 1987.SUMMER

HOTLINE 柴崎功
(前略)
セト物やガラスのエンクロージャーに入ったスピーカーは、これまでにもいくつか出ているが、いずれもエンクロージャーの鳴きにより音に独特の個性があり、筆者はどうもなじめなかった。しかし、このスピーカーは、そういった一連のものとは次元が違っている。素材や構造の工夫で、セラミックスの共振を徹底して抑え込んであるので、本物志向のナチュラルでまろやかな音質だ。それにシングルスピーカーなので、音像定位がシャープである。(中略)低音のパワー感にはおのずと限界があるが、置き方によっては、この形状からは意外なほどの低音が出るし、それを裏付けるかのように、三倍の内容積を持つ木製エンクロージャーに匹敵する周波数特性を示している。
ちょっと変わった試みとして、ソファーに座って、このスピーカーを両脇に置き、両腕で抱えるようにして鳴らしてみたところ、骨伝導によりボディソニックにような体感低音と、まん前で歌手が熱演しているような、迫真音場が体験できた。フォルムも美しいし、工夫次第でほかにもいろいろ変わった楽しみ方ができそうだ。