アイワの古いスピーカー「SC-45」を入手した。ドライバーを修繕しつつ、音を聴いてみた。

マニアには有名らしい
前回と打って変わって、古い国産スピーカーを見ていく。アイワの「SC-45」という品番の、フルレンジパッシブスピーカー。

アイワ製のスピーカーでは、以前「SC-61」という製品を入手したことがある。音を出してみるとなかなか好印象だった。
今回はそれよりも発売時期が古く、1976年。

手元に資料もないのになぜわかるのかというと、古いにもかかわらずインターネットで検索すると思いの外ヒットするから。どうやらアイワの製品としての話題というよりは、「搭載しているドライバーがアイデンのOEM供給品だから」が焦点となっていて、それに関して当時を知る方々が回想して懐旧するものが多い。

そういった話を知るのは楽しいし、かくいう自分はオーディオどころかまだこの世に存在してすらいない時代の物語であり、郷愁や物思いに沈むことなくヴィンテージの音に触れることで疑似懐古に浸るのが、あえて古いスピーカーを入手する動機のひとつになっていたりする。
音の良さを疑わないいっぽうで、もう少し一次情報かそれに近いものが欲しいな、と思うこともある。人づてに知る噂話も貴重ではあるけれど、それはそれとして裏付けとなる情報も知っておきたい。本品だと、アイデンのOEMって"どこ情報"? となる。
このあたりは、当時の刊行物をあたってみるくらいしか自分にできることはない。そのうちまとめて調べてみよう。
外観
ディテール
さて、およそ50年前に製造された製品にしては、そこそこ綺麗な状態で現存している。

まあ、そういったものを選んで入手を試みているから当然ではあるのだけど、なんだかんだ、往年の姿を留めているものはそれだけでちょっとした感動があるものだ。

エンクロージャーは合板製。石目調とでも言おうか、ややマットな雰囲気の暗いシルバー色のPVCシート仕上げとなっている。

前面に大きく覆われたネットは、バッフル面に固定。そのフレームも合板か集成材を加工して組み合わせた木製で、時代を感じる。

前面のネットとキャビネット部の突き合わせた部分には、光沢のあるシルバーの化粧が施されている。
バッフル
ネット越しに黄色いコーンのドライバーが見える。その下部にはバスレフポートも。



背面
背面は、埋込型の樹脂製コネクターユニット。

この体積のスピーカーでは、コネクターにこれだけの面積を占有しているのはめずらしい気がする。

ポストはスナップイン式。穴の径が小さいので、細いケーブルしか挿し入れられない。

整備前の音
一応、音は出るらしいのだけど、以前別のメーカーでアイデン製OEMドライバーを搭載したスピーカー「CE-4a」を見たときはサラウンドが硬化していて、そのままでは低音域が出てこなかった。その経験から、リスニングはほとんどせずに、マイクで収音したらすぐに筐体を開腹することにする。
予想のとおり、低音は出てこない。フロントバスレフによる補完があまり機能していないようだ。
それ以外では、高音も意外と出てこないな、ということ。直前まで2ウェイスピーカーを鳴らしていたからというのもあるけど、それにしてもこんなもんだったっけ? されども公称では再生周波数帯域の高域方向は16kHzとあるので、それを知ると、まあこんなもんか、ともなる。
中音の再生は、さすがである。身の詰まったツヤっぽい音。能率感があって、かつ投げやりでチープな音にはならない。

周波数特性とインピーダンス特性を見る。周波数特性図は、いつもは5回収音した平均を出した図だけど、今回は3回。


こうしてみると、低音は全然出ていないわけでもないんだな、という印象を受ける。サラウンドを張り替えず、再生機側で少しブーストしてやるだけでもいいのかもしれない。

今回入手した個体は左右の2台で低音域の特性が揃っていないので、その解消のためにも修繕する。
内部
バックパネル
背面のコネクターユニットから外そうかとネジを外してみると、ケーブルとポストははんだで接続されていて、このままではケーブルを切るかはんだを剥がさないかぎりムリ。

ケーブルの余長はあるようなのでそのままバックパネルを外してしまえばいいけど、今回は配線を引き換えるつもりなので、ここでぶった切る。

筐体内
アイデン製だというドライバーは、フェライトマグネットだ。

CE-4aに搭載のドライバーはアルニコマグネットだったのでそれを期待したのだけど、別物らしい。
ドライバーユニットは、固定に使われているフランジ付きナットを取り除けば簡単に外れる。

吸音材は、古いアイワ製のスピーカーでよく見る、カサカサしたニードルフェルト。前面以外に張り巡らされている。


このシート状のフェルトの固定は少々ルーズで、天面と底面にタッカーを打ちこんだのみで、両側面はなにも固定されていない。

フルレンジドライバー
ドライバーを見る。




やや薄いとはいえ、1970年代のスピーカーの磁気回路に用いられたフェライトマグネットとしては、径が大きめ。

センターキャップはアルミだろうか。

整備
新サラウンド
例によって振動板のクロス製サラウンドがカチカチに固まっているので、これを張り替える。
この手順も、CE-4aのときと同じ。溶剤含侵で既存のサラウンドを剥がし、汎用のものを接着する。

既存の矢紙は再利用するので、なるべく綺麗に剥がす。

剥がした矢紙は余分な接着剤を削り取り、半分くらいの厚みになるよう二枚に割く。

分割した一枚は新しいサラウンドのスペーサー代わりとして、フレームのフランジ部に先んじて接着。もう一枚は、接着した新しいサラウンドのさらに上に接着し、前面バッフルとのガスケットとして利用する。



この矢紙の加工が無いと、バッフルに固定するさいにフランジ部に隙間ができるほか、サラウンドのロールがバッフルの貫通孔と干渉する可能性も出てくるので、やっておいたほうが無難。
新コネクター
バナナプラグを挿せるようにするためには、既存のコネクターユニットのポスト部を交換することで実現できるので、代替品を用意してそれと付け替えるだけ。

ただし、先に見たとおり、既存のケーブルの接続ははんだ付けされているため、新しいコネクターに合わせた接続方法を選択し、ケーブルを加工する必要が出てくる。
さらに、今回は新たに太めのケーブルを用意する都合で、コネクターユニットの既存の貫通孔のままでは物理的に干渉してしまうため、孔を拡張する作業も発生。

ツイストケーブル
いろんなスピーカーに付いてくる新古品のケーブルが余っているのだけど、細すぎてそのままインナーケーブルとして使うことはしたくない。それならばと二本のケーブルをねじったツイストケーブルを作って早々に消費してしまおうとすると、今度はケーブルをよじる工程に手間がかかる。
なにかもっと簡単になる治具はないもんかなーと探していると、「ひもより器」なるものを発見。

これは手芸用で、糸を撚るためのものだけど、電線にも使えないのか? ということで入手。
ケーブルに丸形端子を圧着し、そこにフックを引っかけてハンドルをいくらか回すだけで、一瞬でツイストケーブルの完成。

懸念点としては、フックに引っかけない側のケーブル端をどうやって固定するのかと、圧着端子の消費が上がることか。後者は仕方がないとして、前者はケーブルをまとめて平形端子で圧着したのち、それを両の膝で挟んで固定することでひとまずクリア。

このひもより器の扱いに関しては、要練習だ。
整備後の音
というわけで、出音を確認。




低音に関しては測定するまでもなく、聴感で明らかに出るようになったのがわかる。振動板のストロークはそこまで変化がないにしては、量感がしっかりと上がり、わりと下のほうまで聴こえてくる。音に厚みが増し、現代の同じような体積のモデルと遜色ないくらいにはなった。
ツイーターを被せたくなる高音であるのは変わらないものの、CE-4aではサラウンドを張り替えたら高音域のレンジが狭くなったのが、今回は張替え前とまったく変わっていない。……まあ、そうであるのが通常だとは思うのだけど、以前と同じことをしているはずなのに、どういうことなんだろう。
他方、中音域では1.4kHzから2.4kHzまでの帯域がやや抑え気味となっている。これは程度に差は有れどCE-4aでも同じようなことが起きているし、分割共振の性質が変わってたまたまこの帯域が落ちこむのかも。サラウンドの材質を別のものにしてみるとまた違うかもしれない。

コクのある中音が心地よい。エッジが立っていてニュアンスが潰れないし、パース感もある。高音のレンジ感を脇に置けば、たとえ半世紀前のスピーカーなれどそのへんの現行機なんざ目じゃない実力機といえそう。
まとめ
ファンが多いのも納得というもの。

最近たまに聴くようになった古典派のクラシックを鳴らしてみる。高音のレンジ不足で聴けたもんじゃないだろうな、なんて思っていたところ、意外にもそこまで違和感を覚えない。こういう「お前の知らない手の内を見せてやる!」みたいなことがあるから、ここまで古いスピーカーを愉しめてきたんだよな、と改めて思うなど。

とはいえ、保存状態が良いことと併せて、このドライバーで音を聴くならサラウンドの調整が必須であることもわかってきた。古いものは古いなりの修繕が必要になるとすると、あえてこのスピーカーに手を出さずとも、と思ってしまったりもする。
終。






