デノンのフルレンジスピーカー「SC-51V」を譲ってもらった。経年劣化部位の補修、および近代化などを施して音を出してみた。その所感。

PA風デザイン
ほかのスピーカーを整備している最中に、とある理由でちょっと気分転換に別の機種に手を出すかとなり、並行して整備を始めたスピーカー。デノンの「SC-51V」。

下の写真のとおり、ドライバーのエッジが朽ちている。


これにより、およそジャンク同然で某フリマサイトに放出されていたので、確保しておいたもの。磁気回路が問題なく生きているのならとりあえず復活できるだろう。
外観のデザインは、以前入手したオーディオテクニカの「AT-SP80」と似ている。
インターネットで軽く検索をかけてみたところによると、どうやら発売時期もほぼ同じみたい。当時はこのPA機器に寄せた無骨なデザインは流行りだったりしたのかな。事情はどうあれ、自分は好みなので興味を持ち入手したわけだけど。

手持ちの資料に無く、本機の詳しいことはわからない。そのうち当時のカタログでも入手してみよう。
(追記1)
当時のカタログを入手してみた。1986年(昭和61年)7月21日発行のもの。

また、ひとつ上のサイズに「SC-101V」という2ウェイスピーカーもあったようだ。これはこの時期に流行した「SC-101」の後継モデルということになるのだろうか。
さらに、アンプを内蔵したモデルもあったらしい。

「SC-50V」は本機と外観がほぼ一緒、というよりも筐体が共通なのだろう。対して「SC-30」はなぜか「SuperBoy mini」と銘打たれており、「SC-31V」とはデザインも若干異なるように見える。
(追記1ここまで)
外観
修繕する前に手早く外観を見ていく。まずは、この絶妙なサイズ感がなんとも良い。

おそらく10cm径のフルレンジドライバーが積まれているのだと思うけど、横幅と奥行きがほぼ15cmとなっており、ドライバーに対して比較的コンパクトな体積となっている。ただし高さ方向は5割増しの約22.5cmで、立方体とはなっておらず縦長。ドライバーはバッフルの中心ではなくやや上の位置に構える。

デスクトップオーディオとして机上に置くスピーカーとしては、このくらいの大きさが限度だろう。確保できる音質と専有面積のバランスがちょうどよいと感じる。これより大きいものとなると、いささか大げさな印象。
AT-SP80と同じく、筐体の角部にプロテクターを備える。

AT-SP80のものは樹脂製で硬い質感であるのに対し、こちらはゴム製でそこそこ柔らかい。あちらはスタッキングできる仕様だけれど、こちらはそうはなっていない。

プロテクター以外の仕上げは、定番の黒い木目調のPVCシート。エンクロージャーを構成するのは、背面の板材の断面を見るかぎり10mm厚のパーティクルボードのようだ。

その背面には、コネクターユニットとバスレフポートがある。

内部
このままでは音を出せないので、今回はすぐさま分解整備に進む。
前面バッフル
前面の四隅にある六角穴のネジを外していく。これでパンチングパネルを抱えた樹脂製の前面ガードが外れるものと思っていた。しかし実際は、これがドライバーユニットを固定するバッフル板となっており、ネジを外すとドライバーごと前面にゴロンと倒れるのであった。



(追記2)
当時のカタログの写真から察するに、底部側にある謎の孔は、同形のアンプ内蔵モデルであるSC-50Vにおいて電源ボタンやボリュームノブなどを搭載するためのものだろう。アンプ非搭載のこのモデルでは、前面に銘板を貼ることによって孔が塞がれている。
(追記2ここまで)
いっぽう、ドライバーはネジで固定すると矢紙とバッフルが接触するような構造なのだけど、一部には隙間ができてしまっている。ここはなんらかの方法で塞いでしまいたい。
キャビネット部
エンクロージャーの内側は、シンプルそのもの。

補強の類はいっさい無く、吸音材もゼロ。紙製のバスレフダクトがあるだけだ。
伸びているケーブルは、24AWG。

ドライバー
ドライバーユニットも、外観は取り立てて言及することがないもの。



金属プレスのフレームに、防磁カバーで覆われたマグネット。質量も平均的。ラベルには「MAX. 50W」とあるので、磁気回路が強力でそこそこ突っこめるのかもしれない。
紙製のコーンも、コルゲーションなどの仕掛けの無いスベスベのものだ。

ただ、この昔ながらのなんの変哲もないペーパーコーンが、なんだかんだ音が良かったりするんだよな。
整備
音を出せるようにすることのほか、気になるところを修正していく。
エッジの張替え
ドライバーの朽ちたエッジを新しいものに張り替える。
当然ながら既存のエッジをすべて剥がすわけだけれど、それに先立ち、既存の矢紙をどうするのかを決めなければならない。

オリジナルと同じように、これをていねいに剥がして保管し、新しいエッジを張ったのちに同じ位置に接着するのがセオリーだろう。しかし、今回はこれを残し、新しいエッジの台座とすることを選択。

こうすることで、エッジの最外周の"耳"の部分がガスケットを兼ねることができ、別途用意する必要がなくなり省力化に貢献できる。

ダンパーがわりと柔らかめなのかピストンモーションが軽快で、このあとにエッジにダンプ剤でも塗ってすこし重くしておこうかと思っていたけど、張り終わってみると気にならなくなったため、そのままとする。
リアパネルの変更
背面のコネクターユニットをバナナプラグが使えるポストに付け替えたい。その方法を考えていると、リア側にある各パーツ類の配置をシャッフルしたくなってくる。そこで、好みの配置にできるように、リアパネル自体を設けることにする。
ラベル撤去
以降の作業に先立ち、既存のラベルシールを剥がしておく。これはあとで再利用するので、なるべく綺麗に剥がしておきたいところ。

皮スキを挿し入れて、ゆっくり動かす。水や溶剤類は使わない。この面はのちの工程で完全に隠れるため、既存のパーティクルボードに傷がつくことを承知でガシガシ剥がす。

新パネル
4mm厚のMDFに、バスレフ用の43mm径の、埋込型のコネクターユニット用に49mm径の孔を開け、黒に塗装する。

下部にあるバスレフポートをなるべくパネルの上側に寄せて中心付近に、反対に上部にあるコネクターユニットは下部に配置したい。各々取り付けるパーツに合う貫通孔を設けたかたちだ。
新パーツ

バスレフダクトとコネクターユニットは、いつものように既製品の樹脂一体成型のものを使用する。
ただしダクトについては、開口部が緩やかに広がるラッパ型になっているものをチョイスしてみる。

このダクト、けっこう前に比較検討用として入手してみたものの使う場面がなかなか訪れず、長いこと埃を被っていた。今回のようなサイズ感のスピーカーにはちょうどよさそうだということで、ついに抜てき。
パネル接着
まずは新パネルを既存のパネルの上に嵌めこむようにして接着する。ここの接着剤はゴリラグルー。

既存のバスレフポートがある位置に新しいコネクターユニットを取り付ける。既存の紙製ダクトを取り除いたら、新しいパネルをガイド代わりに、既存の開口部を広げるようにしてくり貫く。

ちなみに、バスレフダクトの貫通する部分は、今回においては既存のコネクターユニットの開口をそのまま利用できるため、これ以上の加工が不要である。
内部配線
コネクターユニットには、パネルに固定する前に配線を済ませておく。
ケーブルは、ちょうど余っていた14AWGのOFCダブルコードを使う。


パーツ固定
バスレフダクトは2液性エポキシ接着剤で強力に固定。コネクターユニットは既存のネジを流用し、内側から適当な接着剤を流してシールする。

今回、新しいパネルとして採用したMDFの厚みが4mmと比較的薄いにもかかわらず、ダクトの固定はその断面のみで成し得なければならない。そのため、硬化に時間を要するとしても2液性エポキシ接着剤が必須といえる。

吸音材の新設
筐体内に吸音材を設ける。最近やたら出番の多い、5mm厚のフェルトシートを今回も使用する。

ひとまず両側面と天面に張ってみる。あとは、いちど組み上げて出音を確認してから微調整。

出音
音が出るようになった。今回は試聴の前に、収音してデータを見ておく。
おおむねOK。けれど、周波数特性にある1kHzから2kHzにかけての断崖は、やや気になる。インピーダンス特性を見てもこのあたりがいびつなので、なにかあるのかもしれないけど今のところよくわからない。
低音域の位相特性も、あまり見ないものだ。これはフレア形バスレフダクトの特性なのか。ダクトの断面積が一定でない特殊な形状のバスレフ式の特性をほぼ知らないので、傾向がイマイチつかめないところがある。また、インピーダンス特性を見るに共振周波数は100Hz付近のようで、これはこれで無難かなと思うけれど、さらに上の設定でもよかったかもしれない。
特性はふたつとも同じ傾向を示しているものの、わずかながら差が見受けられる。

特定の一部分にのみあるわけではなく、中高音域にわたりゆったりと差異がある感じ。エッジの張替えの影響か。聴感で無視できればいいのだけど、一基ずつ交互に聴き比べてみると自分の耳でもなんとなく違っているように聞こえる……このあたりは、音を聞くよりも示されたデータを先に見てしまったことの弊害で、勘違いの可能性もある。
再調整
一応、両者ともにキャビネット側の調整を試みて様子を見る。それで変わらなければ無視だな。


ネジ穴周辺を中心に貼ってみる。この程度でどのくらい変わるのかわからない。響きかたに変化が出ることを狙う。
再調整後の音



低めの中音の差はほぼ解消されている。しかし、中音より上方向はあまり変わっていないように見える。まあ、こんなもんなのかな。2chステレオ再生で聴くぶんには気にならないから、これでひとまず終息。
それとは別に、100Hzから200Hzあたりまでの低音域は、わずかながらレベルが上がっている。筐体の気密性の向上によるものだろう。
このままインプレッションへ。アンプはいつものヤマハ「RX-S602」。
AT-SP80のイメージがあって、こちらも能率が高そうだな、とは端から思っていた。それは想像のとおりだったのだけど、あちらの「あなたの耳に音を最速でお届け!」みたいな剛速球が飛んでくるわけではなく、適度に制動されていてオーディオっぽい鳴りかたをする。長時間聴いていても聴き疲れしない。
高音は、意外にも伸び、澄んでいる。さすがにマルチウェイほどのレンジ感とはいかないまでも、こちらもAT-SP80よりは明らかに聞き取れる。これはこちらのほうが小型のドライバーであることも要因だろう。
いっぽう低音は、量感は得られない。ただし音としてはそこそこ下のほうまで鳴っており、容積を踏まえれば並ひととおりといったところ。バスレフポートから出るボソボソとしたノイズは、音量を上げていっても気にならない程度で、現代風のクリアな音。さしものラッパ型ダクトといえるだろう。
特性的にはクセのありそうな中音域は、聴感ではそれほど気にならない。やや大雑把なところはあれど、いわゆる音離れが良い音で、メリハリの効いた明瞭さを持つ。聴いていて楽しくなる音だ。

もっと荒っぽい雰囲気だろうと、正直舐めていた。これ、けっこうイイぞ。
まとめ
別のスピーカー整備から離れて気分転換みたいなつもりで始めた整備だけど、いろいろと手を出して、終わってみればけっこうなボリュームになってしまった。

しかも、まだ気になるところは残っている。前面バッフルである。やや頼りないので、それ自体の剛性を上げるプレートを具備するとか、ネジの固定部のさらなる補強など、手を入れられる部分はいくつか挙げられる。
されども、そこまでする資金が足りない。というか安価なスピーカーにそこまでおカネも手間も注ぎたくない。音は現状で満足なので、よほどのことがないかぎりは手をつけないだろう。

今もこのスピーカーでリスニングを続けている。思いのほか気に入ってしまった。やっぱり自分は1980年代の音が好みなんだろうな。
おそらく祖にあたるであろう「SC-101」やそのほかの後継品など、未だご縁の無いそれらについても俄然音を聴いてみたくなってきた。

終。












