Highland Audioというブランドの小型パッシブスピーカー「AINGEL3201」が手に入った。音を聞いて、ちょっとだけ調整するなどしてみた。その所感。

初ハイランドオーディオ
あまり聞かないブランドのスピーカーが良さげだったので、手に入れてみた。フランスのInovadis社なる会社が手掛けるHighland Audioというオーディオブランドの製品で、「AINGEL3201」という小型ブックシェルフ型スピーカー。

舶来品らしい。
公式ホームページらしきところをみると、ラインナップがスピーカーしかない。専業メーカーなのだろうか。
これまで聞いたことがあるような無いような記憶があやふやなブランド名。インターネットによると、設立が2003年ごろで、海を渡ってきたのが2005年のようなので、ひょっとすると当時、ヨドバシカメラあたりでスピーカーを選んでいるときに、なにかしら実機を試聴したことがあるのかもしれない。

たとえそうだとしても、20年近くも前のことなので覚えているはずもなく、事実上これが初の邂逅といえる。
外観
手が伸びたのは、ずいぶんと小型だな、と思ったからだ。ブックシェルフ型なので小さくはあるのだけど、このスピーカーは正面から見て横幅がより細く作られている。


また、背面のパネルが奥行き方向に窄められたような形状をしていることも、スリムな筐体をより強調させているように思う。


音響の観点からこうしているようなのだけど、見た目もスタイリッシュで良い。
ただ、仕上げに使われている木目調のシートは、近づいて見ると解像度が粗めでチープだったりする。

オーク調の明るいカラーだから余計に目立ってしまうのだろう。質感としては、JBLの「Jシリーズ」などに使われているものと近いけど、あちらよりもさらに粗い。
とはいえ、背面側までキッチリ覆われているし、板目の山型模様をちゃんと板の真ん中に持ってきて柄を揃えているのは好感が持てる。
前面の黒いバッフルは、おそらくMDF製だろう。塗装かと思ったら、どうやらシボ塗装っぽい質感のシート仕上げのようだ。

ウーファーのフランジ部とブランドロゴをあしらったパーツを上手く組みこんで、黒一色ながら立体的なデザインとなっている。


なお、底面には埋込ナットのようなものがあって、脚を取りつけられるようだけれど、今回届いたものには付属していなかった。

ウーファーは見た目はアルミっぽく、金属製コーンかなと思っていたのだけど、触れた質感はどちらかというと射出成型の樹脂シート寄り。

公式いわく、「Metal/ceramic cone」なるものらしい。金属と陶材の両方を使っているということだろうか。よくわからない。
エッジは柔らかめのゴム製。しなやかで、よくストロークする振動板だ。
ツイーターはチタンドームだという。グリルネットで覆われている。

こちらは金属だと明確に表現している。見たところチタンフィルムのようだ。アリエクを眺めていると、コレとよく似たものがメンブレンのみの補修用パーツとして出品されているのをよく見かけたりするので、現代ではわりと主流のツイーターなのかな。

背面は、バスレフポートとバイワイヤリング対応のバインディングポストがある。

ポートはダクトを含めて樹脂製の一体品。板材と面一になっていてスマートだ。
バインディングポストのベースとなっているのは、表層がツヤツヤしたガラス質のプレート。余所では見かけないものだ。バックパネルの形状が特殊なので、汎用的なコネクターユニットを組みこみづらかったのだろうと予想する。銘板のシールも、貼りついている場所が窮屈そう。

前面ネットはフレームがMDF製でしっかりした造り。ただ、樹脂製のダボが細めで、簡単に折れそう。

また、エンブレムが片方逆さまに付けられている。

これも初めは左右対称にするデザインなのかなと思ったけれど、ここ以外はそうなっていないし、対称にもなっていない。向きを間違えて取りつけた不良品か? そんなことあるの?
雲行きが怪しくなってきた。
音
音を聞いてみる。アンプはいつものヤマハ製AVレシーバー「RX-S602」。
うーん……普通、というのがファーストインプレッション。致命的な欠点は無いけど引き立つところも無い印象。
ツイーターの金属っぽい雰囲気はある程度抑えられていて、金属ドーム特有のキンキンする音はしない。適度に華やかで、質感は良い。
中音は、なにかくぐもった感じがある。全体的にはモダンでハイファイな音のなか、中音域にだけ幕が掛かっているような鳴りかたをしている。定位は問題ないし、ゴチャゴチャする感じでもない。なんだろうこれは。
低音はやや控えめながら、存在感を保ちつつ品よく響かせる。量よりもレンジ感を重視した音で、けっこう下のほうまで聞こえてくる。この小型ドライバーと筐体であれば必要十分だろう。音が下方向に向かうにしたがって自然に終息する感じは、密閉型に近い雰囲気がある。

無難、といえばそのとおり。エネルギー配分も偏っていないし、聴き疲れすることもない。能率がやや低めだけど、極端なほどではない。決して悪くはない。でも、なにか物足りなさを感じずにはいられない。
周波数特性を見る。


低音域のレンジの広さは秀逸。バスレフの扱いが巧みなのだろう。ただ、このグラフほど聴感は伴っていないようにも思う。
いっぽう、このスピーカーは左右一組で、シリアルナンバーも連番になっているのだけど、ふたつで低音域の出方に明確な差がある。

たぶんエンクロージャー内の吸音材の配置が左右で異なっているんだろうとダクトを覗いてみると、見込んだとおりであった。一方はエステルウールと思しきものが開口部を完全に塞いでいるのに対して、他方には少し隙間がある。


原因はわかったものの、どちらが本来想定している状態なのかはわからない。ここはとりあえず、ポートを塞がないほう、つまり上記2枚の写真では下のほうを正規としておく。

内部
まだ比較的新しい製品であり、音のチューンをするつもりもないので、前述した吸音材の配置を整える程度のつもりで開腹していく。
ドライバーユニットは前面バッフルにある六角穴のネジを外すだけで分離できるけど、繋がれているケーブルがすべてはんだ付けされているのがやや面倒。



吸音材は、やはりカサカサのエステルウール。長細い一枚のシートで、いっさいの固定無しに詰めこまれているだけの状態。


ツイーターユニットをバッフルに固定するさい、ケーブルがウールを押しのけて変形した結果、バスレフポートを塞いでしまう格好になったのか。あるいはウールの自重で垂れ下がってきたのか。なんにしても、天面くらいは接着剤で固定してほしいものである。
筐体内は、底面にディバイディングネットワークの基板がネジ留めされている。

また、梁状のつっぱりは無いものの、適当な大きさの木片を桟として随所に利用し、補強している。

背面のバインディングポストのベースとなるプレートは、アクリルっぽい板材を加工したもののようだ。


なかなか凝ったことをしているなと思う反面、ネットワーク基板を固定しているネジのひとつが外れていたりと、詰めが甘いところもある。


基板はタッピングネジ3点で固定されているけど、前面2点のみで保持されていたことになる。
また、もう片方のスピーカーでは、そもそもネジで固定する位置が異なっていたりもする。

ディバイディングネットワークは、オーソドックスながら物量を投入したものとなっている。


ただし、コイルとコンデンサーは、基板のシルク印刷にある数字と実装されたパーツの定数が"すべて"異なっている。

回路の一部のみ異なっているのはほかのスピーカーで見かけたことはあるけど、全部が全部違うというのはこれが初めてだ。いったいなにが起きたのだろう。
しかも、基板自体がフラックスや接着剤らしきものでけっこう汚れているし、いわゆる「はんだボール」が基板の両面にわたってそこらじゅうにくっついている。

先に見た基板の固定方法といい、ここまでくるとさすがに品質管理の体制を疑ってしまう。フランスはこのあたり大らかなんだろうか。それとも、現場ではこれがあたりまえなのか?
防磁設計のウーファーは、金属プレスのフレームに組まれた標準的なものに見える。


安価な製品だと金属製でもペラペラで軟弱だったりするけど、こちらにはその印象は無く、質量もそれなりにある。カバーがかかっていて見えないけど、磁気回路はそれなりのものを積んでいるのかもしれない。モノは良さそうだ。


ちなみに、フランジ部の化粧カバーは樹脂製で、少量の接着剤でくっついている。

ツイーターは、ネオジウムマグネットのようだ。全体を樹脂モールドされていて、内部へのアクセスは容易ではなさそう。


マグネット背面に放熱用のフィンが付いている。たしか、ネオジウムマグネットは温度上昇による特性の変化が、ほかの磁石よりも受けやすいんだっけか。

これはネジ留めされているようで、唯一手を入れられそうな部分なのだけど、ネジを接着剤が覆っており、かつなぜかなめてしまっていてこれはこれで外すのが大変そう。ここで諦めた。
整備
さて、吸音材の手直しは外せないとして、それ以外にコンデンサーくらいは交換しておこうかと思っていたけど、現状で異常は無いなかで新しいパーツを用意するのも、金欠の自分としては気後れする。とはいえ、見たところあまり良いパーツを使っているとも思えないし、落としどころはどこかといったところ。
なぜかラベルが印字ではなくシールによる後付けで、シースがビニールテープを巻きつけただけのようなアヤシイ造りをしているHPFのフィルムコンデンサーを交換することにして、ほかは弄らないでおく。


上位のシリーズはケーブルが銀コートらしいので、それっぽいものにすれば同じ仕様になるけど、今回はやらない。

この基板は元の位置に戻すさい、底面に接着剤に浸したフェルトを敷きその上に乗せてネジ留めする。
樹脂製プレートの裏側において、バインディングポストの固定に使われていた樹脂製のワッシャーがひしゃげていたので、外径が標準より大きめの金属製のワッシャーに交換しておく。

また、筐体の両側面に薄いフェルトシートを貼っておく。

音の変化
たいしたことをしていないので音も変わらないだろうと思っていたのだけど、けっこう大きな変化があった。

左右で揃っていなかった低音の特性が整ったのは当然ながら、中音の輪郭がハッキリするようになっている。低めの中音がやや奥まっているのは変わっていないけど、解像度が一段上がったようでニュアンスがわかりやすい。とりわけ金属系の音は違いが如実だ。コンデンサーの相性がたまたま良かったことのほか、塞がれていたバスレフダクトが開放となったことで、ポートから中音域の音が少し出てくるようになったことも影響していると思われる。


あらためて、リスニングを進める。この音なら上々といえる。
基本的に現代的なハイファイな音だけど、どんなソースもそれなりに鳴らす優等生の印象だ。スケールが大きく、小径ドライバーであることを忘れる。

まとめ
「ガワが立派でも中身は適当」というのは、まあ、どこにでもあるものだ。今回ほど酷くはないけど、最近見たなかではPOLK AUDIOの「ES10」がそんな感じだったし、見えない部分だから多少はね、というのもわかる。

だけど、限度はある。今回見てきたように、愚にも付かない施工をしてそれが音に影響してしまうのは、ことスピーカーにおいてはそれこそ論外なわけで。買うほうだって、決して安くはない額を支払うわけで。

これまで見てきた自分の感覚だと、1990年代半ばから2000年代初頭までの製品に、杜撰なものが多く見受けられる印象だ。合理化という御旗のもと、このスピーカーもその流れを汲んだものなのかなと思えてしまえるのは残念である。少なくとも、長期運用は考えられていないんだろうな。
終。
