ダイヤトーンのブックシェルフスピーカー「DS-100ZV」を入手したので、音を聴いたり少しだけ整備したりしてみた。
以前整備した「DS-B1」との比較を主軸にしている。
素性
ダイヤトーンから発売された、ブックシェルフ型スピーカーである。
ダイヤトーンは、1999年にコンシューマー向け音響市場から撤退した。そのあと、2005年に受注生産の高級スピーカーの開発が発表されるまで、同社製単品スピーカーはニューモデルが不在だった。
このDS-100ZVというスピーカーは1998年に登場したものの、発売した翌年に撤退するため、界隈ではブランドのラストモデルとみられるようだ。
一応、「DIATONE」の名はカーオーディオに継承されてはいるし、沈黙の期間があるものの前述のとおり後年復活を果たすので、厳密にはブランドの消滅とはいえないのかもしれない。しかし、福島県郡山市にあったスピーカー製造を担っていた工場が閉鎖されたことがやはり節目のように思えるので、この製品が"事実上"最後のスピーカーシステムとの認識になるのはうなずけるところ。
外観
おそらく時勢だと思うのだけど、この製品はサラウンドスピーカーとしての性格を持たせたかったようで、本体が小型かつ横置きを想定したデザインとなっている。
とはいえ、エンクロージャーの形状はRの無い直方体なので、デスクトップに縦置きにもできる。
サイズ感としては、先日整備した同じダイヤトーンのスピーカー「DS-B1」と同等。
バスレフ型なのも一緒だけど、ポートは背面にある。
仕上げは、明るい木目調のPVCシートで包まれている。
柔らかめのラバー製エッジに、紙製のコーン。センターキャップの表面には筆跡の凹凸のようなものも同様にある。
ツイーターも3cmコーン型で似たようなものだけど、こちらは前面にグリルネットが装着されているほか、外周部に厚さ1mmのフェルト製のリングが貼られている。
また、DS-B1にはイコライザーのド真ん中に小さなフェルトのようなものを接着させていたけど、こちらには存在しない。
背面にあるコネクターユニットは、埋込型の汎用的なものが搭載されている。
音
出音を聴いてみる。
アンプはヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。
搭載しているユニットが似ているなら、音もたぶんDS-B1っぽいだろうなという予想は、半分くらい当たっていた。張りのある中音域が中心にあり、そこを分水界として、高域方向と低域方向それぞれに下っていくようなバランスをしているのがそれだ。音域を無理に広げようとせず、鳴らせる範囲をキッチリ鳴らす印象を受ける。
異なる点は、緊迫感が減少していることだ。音の輪郭を際立たせてはっきり聴かせようとするDS-B1に対して、こちらは丸みがあり、若干ソフトになっている。
また、低音域はDS-100ZVのほうが深みがあるように感じる。
周波数特性的にはDS-B1のほうが低いのだけど、こちらのほうが出音が安定していて、存在感がある。エレキベースを聴いていると、音階が綺麗に再生されているし、ハイをブーストしたような音やオーバードライブのニュアンスなどもそこそこ明瞭に再現している。
ちなみに、スピーカーの背面は、壁面から15cmくらい離した位置にある。
音自体も快活だけど、DS-B1と比較するとやや落ち着いている。ネットワークを介さないウーファー特有の高音のピーク感もうまい具合に抑えられており、どのソースを流しても耳につくことがない。聴感上はこちらのほうが自然である。
ただこれは、特徴が薄まったともいえる。無難にまとまった反面、つまらない音だと感じるかもしれない。
パース感に乏しいのは一緒。ただ、定位感や分解力はDS-B1に分がある。
エネルギーのバランスは一緒でも、トランジェントが強調されるDS-B1とまろやかなDS-100ZVで、色付けが異なる。とはいえ僅差であるので、聴く人間の好みに厳密に合わせたいということでなければ、どちらを選んだとしても同じような印象になるのではないかとも思う。
周波数特性を見てみる。
全体的にDS-B1とそっくり。中高音のピークの出方もほぼ同一。
分解
中身を見ていく。
見えているネジを外していくだけだ。
ウーファーを固定しているネジは、なんとミリネジだ。筐体側はつば付きの鬼目ナットが埋めこまれている。
タッピングネジではなくわざわざボルトナットを使うのは、メンテナンスする立場からすれば扱いやすいのはもちろん、ナットをちゃんと固定できるだけのしっかしりた板材をエンクロージャーに採用していることの証左だと思っている。
ただ、このスピーカーの場合、ウーファーユニットのフランジが当たる部分はザグリ加工が施されていて、厚みが8mm程度しかなくやや頼りない。
また、化粧用の樹脂製のリングを挟んで一緒にネジ留めする設計であるため、トルクをかけて堅固に固定するとリングが割れてしまう可能性があるのもいただけない。
一方、ツイーターユニットの固定は、タッピングネジである。
なぜウーファーはインサートナットにしているのか。
考えられる理由は、
- 板の厚みが薄いかつ粗めのパーティクルボードであるため、タッピングネジによる緊結ではウーファーユニット全体の重量を長期的に支えられない
- スピーカーを縦置きにするさい、化粧リングにあるメーカーロゴの向きを合わせられるように、ネジの着脱を想定している
といったところか。
おそらく2ではないだろうか。このあたりは、取扱説明書的なものが手元に無いのでなんとも言えないけれど、ユーザーが容易に弄れるようメーカー側が配慮している設計のように思う。というか、そうであってほしい。
だけど、化粧リングを90度回転させてみたところで、筐体前面にある大きなプリントのロゴはそのままなんだけど。
ちなみに、前面ネットにあるロゴエンブレムは、工具なしで容易に回転できるようになっている。
ウーファーユニットは、内側の造りもDS-B1のものとそっくり。
フランジのネジ孔付近を少し切り落としているのと、マグネットの防磁カバーのデザインが多少異なる程度で、目視では違いがわからない。
ツイーターユニットも、内側のデザインはDS-B1のものと同等。
もしかしたら、DS-100ZVのドライバー類は、DS-B1のものをリチューンしたものなのかもしれない。
背面のコネクターユニットは、現代機にもみられる汎用的なもので、単純にネジを外すだけ。
内部のケーブルは一般的なダブルコード。ケーブル自体になにも表記がなく、正体は不明。
バインディングポストとの結線は、はんだで行われている。
このコンデンサーとの結線もはんだ付け。最小限かつとても綺麗にはんだを流されているのが印象的。
ここもDS-B1とほぼ同じだけど、あちらはツイーターが逆相接続だった。
エンクロージャーは、15mm厚のパーティクルボードで構成されている。
このボードの断面を見ると、表面側の密が細かく、内部が粗くなっているのがわかる。
たしか、ヤマハのNS-10Mシリーズも、このような三層仕様のパーティクルボードを採用していた気がする。
MDFではなく、あえてパーティクルボードを使っているあたり、なにか意図があるのかもしれない。
吸音材は、前面以外をほぼ埋めるような形で配備されている。
天面と正面向かって右側、さらに左下のバスレフダクトを半分囲うような形状で折り曲げて接着されたニードルフェルト計三枚。そして背面側にエステルウールが一枚ある。
整備
ところで、今回入手したスピーカーに関しては、まだ比較的新しいこともあって修繕しなければならないほど致命的な欠陥がない。そのかわり、タバコのヤニと大量の埃で筐体全体が汚れていて、そちらのほうが気になる。
洗浄に時間を割くことにする。
エンクロージャー
筐体の仕上げが木目調であれば、ニコチン汚れがあってもあまり目立たない。ただ、汚れているのは間違いないし、そのまま普段使いする気にもならないので、洗浄する。
洗剤は、基本的には中性洗剤とアルコールを使っているところ、今回はハヤトールの出番となる。
本来はこれを対象物にそのまま吹き付けてしばらく放置し、汚れが浮いてきたら拭き取るという作業工程になるのだけど、木製のスピーカーに対してそれはできない。よって、古い無撚糸のタオルにいったん吹いてから、それを少しずつ擦りつけていく方法を採る。
表層のベタつきが無くなるまで、繰り返し拭き取る。時間と手間がかかるけど仕方がない。
洗浄前と後を比較すれば、入手時はかなり汚れていたことがひと目でわかる。
分解したコネクターユニットや化粧リングなどにも同様に行う。
コンデンサー、ケーブル
自分の扱うスピーカーのなかでは比較的新しい製品であり、内部の電気的な部材の劣化もあまり進んでいないだろうと思っていたので、ケーブル類は弄らず再利用するつもりでいた。しかし、片方のスピーカーの電解コンデンサーの静電容量が許容差の範囲を若干超えていることがわかったので、丸々新調することに。
新しいコンデンサーは、ちょうど手元に余っていたFAITHFUL LINK製のメタライズドポリエステルフィルムコンデンサーを使う。オーディオ向けでないものの音質が良好で、小型軽量で扱いやすく価格もお手頃。必要となる静電容量が小さめであれば、これをチョイスすることが多い。
本当ならすべてEXPLORER V2にしたいところだけど、昨今の物価高がついにケーブルにも波及してきて、経費削減を余儀なくされているのだった。
はんだ付けを最小限とするため、バインディングポストとの接続はクワ型端子で行うことにする。ドライバー側はファストン端子。
あとは元通り組み直して、作業終了。
まとめ
国内メーカーのスピーカーシステムについて、いわゆる普及帯モデルは1990年代に入ったあたりから品質が急に落ちているように見受けられるので、ダイヤトーンもそうなのかなと思っていた。ただ、このスピーカーや以前分解してみたDS-B1を見ている分には、たしかにコスト面で妥協している部分はあるものの、伝統に忠実というか、割と堅実な設計をしているな、という印象を持った。
それは、業務用スピーカーの製造に端を発し、コンシューマー向けに展開を始めても高価格スピーカーの製造を長年続けてきた歴史と、オーディオ市場が縮小して撤退するまでダイヤトーンの名をスピーカーに付け続けてきたところなどから、メーカーの姿勢がにじみ出ているような気がしてならない。
復活したダイヤトーンは、昔の高級路線一筋に戻っているけれど、このDS-100ZVのような家電量販店でも購入できるライトな製品も登場させてほしいと切に願う。
終。