いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

KENWOOD S-01S に KFC-E1056J を乗せてみる

ケンウッドの古い小型スピーカー「S-01S」に、現行のカーオーディオ向けドライバーユニット「KFC-E1056J」を搭載させてみた。その所感。

 

サイコロ型スピーカー

某フリマサイトを眺めていたら、かわいらしいスピーカーを見つけたので入手してみる。「S-01S」というケンウッドの古い製品である。

KENWOOD S-01S
なんの予備知識もなく購入してしまった。

背面
立方体に近いサイコロ状のそれは、前面のパンチングメタルに「SURROUND」とあることから、サテライトスピーカーのような補助的な使い方を想定しているのだろう。
質感からして、1980年前後の製品だろうか。よくわからない。

奥行きはやや短い
 

外観

ユニークなのは、全身金属製であること。アルミ製と思しき筒状のボディには、ヘアライン仕上げが施されている。天面と底面に、2本並んだ溝が2か所ずつ流れている。

天面拡大
背面側を鉄板で塞いでいる構造。前面のパネルは固定されているため、現段階では確認できない。
サイズにしては無骨で硬派な外観だけど、アルミの厚みは2.5mm程度で、堅牢な印象はあまり無い。叩いてみると、けっこう箱鳴りする。
 
そして、鉄製の部分は錆が浮いている。

あまり良い環境に置かれていたわけではなさそうだ
アルミの部分は割と綺麗な状態を保っているのに、前面のパンチングメタルは塗装されているにもかかわらず全体的に赤褐色を帯びている。

正面。全体的に茶色い
底面には1/4インチのネジ穴がある。カメラの三脚が取り付けられるので、インシュレーターを敷くよりも小型の三脚をペアで用意して卓上に乗せるとカッコいいかもしれない。

手持ちの三脚に乗せてみた図
 

改修前の音

もちろん中古品だけど、ジャンクではなく動作品として購入したもの。とりあえず出音がどんなものか確認する。
アンプはTEACの「A-H01」。
インシュレーターとしてよく使用している黒檀サイコロの三点支持で聴いてみる。

1cm角の黒檀ブロック
音は確かに出ている。だけど、能率が低いのか、音量がだいぶ小さい。アンプ側で出力を上げていくとビビりだす。うーん。
そして、低音がほとんど出ていない。サラウンドスピーカーの用途としてあえてそういうバランスなのかもしれないけれど、10cmコーンならもっと出てくれてもおかしくはない。
 
ちなみに、この試聴中、背面のフック穴が実質バスレフポートとなっており、そこから低音が聞こえてくることに気がついた。

内側から塞いだりしないものなのか……
周波数特性を見てみる。

周波数特性
およそ聴感と一致するものの、まさか400Hzから下がゴッソリ削がれているとは想像していなかった。左右ともに波形が揃っているため、経年変化や故障でこうなったというよりは、やはり意図的に低音域を抑えたチューンである可能性がありそう。
とはいえ、フルレンジスピーカーとして使うなら物足りないのも確か。
 

分解

中身を見てみる。
 
前面のパネルは、接着剤で固定されているように見えるので、とりあえず力ずくで外そうとするもビクともしない。
素直に背面のパネル外周にあるネジを外すことにする。
なお、このスピーカーはパッキンの類はほとんど使用されておらず、基本的にパーツを固定しているネジを外すだけで容易に分離できる。

背面の金属パネルもだいぶ薄い
背面を開くと、吸音材のウレタンスポンジが表れる。

背面を覆うかたちで置かれている
約1cm厚のウレタンスポンジは加水分解が進んでおり、復元力がほぼ無くなっている。これは交換対象。
それを取り除けば、あとはドライバーユニットがあるだけ。

俯瞰
ユニットは、筐体内側からバインドネジで固定されている。
また、前面パネルが外側から外れなかったのは、パネル自体に爪が4つあり、それがエンクロージャーに喰いこむかたちで固定されているためだったことがわかる。

スリットを貫通し、90度に折られている爪
ただしこの爪、喰いこんでいるのは上下の2つのみで、残りの2つは単にスリットを貫通しているだけ。なぜ。
 
ドライバーは、紙製振動板とクロスエッジのコーン型。

ドライバー正面
フレームは金属プレス製。搭載マグネットも、それなりの径のものが採用されている。

マグネット側
ヨークに「TRIO」の印字が見える。まだトリオブランドと並行していたころの製品のようだ。
 
エッジは、ロールが逆向きのもの。コーンの外周に表側で接着されているけど、接着面が小さいためかほとんど剥がれていて、機能面では首の皮一枚という感じ。
振動板を指で軽く押してみると、パリッと音を立てて完全に分離してしまう。

コーンから剥がれたエッジ
エッジに採用されているファブリックは、透けて見えるほど薄手の生地で、そこになにかが塗られていたような跡がある。撚れて変形しているうえに硬化して、あまりダンプしない。材質的にも状態的にも、以前フォステクスの「G103」を修理したときに搭載されていたユニットと似た雰囲気だ。
ということは、ビビりや低音が出ないのはこれが原因なのか? よくわからないけど、修理して再利用するか迷う劣化具合である。
 
もうひとつのほうは状態がさらに酷く、コーンを押すとダンプする前に破れてしまう。

こりゃダメだ……
リコーンする気にはなれないので、ここで新しいドライバーユニットを用意する決意を固める。
 
前面パネルを外してみる。前面からアクセスすることはないので本来は不要な作業だけど、今回はパネル自体の錆落としを想定しているため、分離する必要がある。
マイナスドライバーを使って喰いこんでいる爪を起こす。

ここも接着剤は使われていない
前面バッフル部は、パネルやコーン同様に黄ばんでいる。タバコのヤニでないとすれば、塗装の劣化だろうか。

汚らしいのでなんとかしたい
また、なんとなく予想していたけれど、エンクロージャーのいたるところに隙間がある。

スカスカである
気密性の確保を意識していない。中低音を響かせなくてもいいという、メーカーのコンセプトなのかもしれない。底面のネジ穴も、じつは貫通していることに気がつく。

「ブラケットに取り付けるならここは塞がるんだからいいでしょ」ということだろうか
 

整備

新しいドライバーユニットが到着するまでのあいだ、エンクロージャー側の整備を進める。
 

錆落とし、塗装

なにはともあれ、外面を綺麗にしたい。
取り外した前面パネルは、錐ややすりなどを使って、錆を地道に削り落としていく。
錆を落としながら、錆止めの成分が配合されている塗料を塗っていく。以前JBLの「J216」のフレームに使用した、ブラックの油性塗料だ。

ひたすら地味な作業
とにかく薄く塗っていく必要がある。一度に広範囲塗ろうとすると、パンチングメタルの孔を塗料が塞いでしまうからだ。塗り過ぎた塗料は、すぐにウエスで拭き取ればいい。
削り、塗り、拭き取る。これを無心で繰り返す。もちろんパネルの両面行う。
ひと通り補修できたら、乾燥のため一晩置く。
そのあと、塗りムラを均すためにスプレータイプの塗料を吹きつける。
最後にクリアーで仕上げて、完了。

塗り終えた姿
錆が酷かった部分は若干塗膜が厚くなっているけど、シロウトの作業にしてはおおむね自然な感じに仕上がったのではないだろうか。
錆を除去する際に既存の塗膜もすべて落としてから塗れば、さらに綺麗になるのだろう。

なるべく細かな液滴を噴霧できるスプレーを使うとよい
ただ、オリジナルの「SURROUND」の文字を再現するまでの気力が無く、ブラック単色の仕上げとなった。そこは妥協。
 
ついでに、エンクロージャーの前面側の塗替えも行っておく。

左:塗装前 右:塗装後
先ほどの油性塗料を適当に筆塗りするだけでも、前面パネルを取り付けた際に引き締まって見えるので、意外と有用。
 

背面

続いて、背面の改修。
既存のスピーカーターミナルユニットを取り除いたあと、その貫通孔を利用して、バナナプラグ対応の新しいバインディングポストを取り付ける。
今回は、内側からMDFを貼りつけることで、上部にあるフック穴も塞いでしまう作戦とする。

背面の金属板は、裏返して使用する
5mm厚のMDFを適当な寸法で切り出し、ポストと固定用のネジが通る孔を開ける。

ポストは、いつもの樹脂製キャップのヤツ
本当なら既存に合わせて金属製にするのがベストなんだろうけど、絶縁処理を考えるのが面倒なので、扱いやすいMDFを採用する。
黒でそれっぽく塗装し、金属パネルにくっつけてやれば完了。

オリジナルよりもシンプルになった
フック穴は将来使う機会が訪れることがなさそうなので塞いでしまった。もしもここが必要なら、MDFではなくゴムシートやフェルトにしておけばいいだろう。

シーリングも忘れずに
 

新ドライバー

10cm径のドライバーは数多くあるけど、せっかくなのでケンウッドブランドから選びたい。いろいろ吟味した結果、カーオーディオ用のスピーカーユニットで良さそうなものを見つけたので取り寄せてみた。

KENWOOD KFC-E1056J
このKFC-E1056Jは、再生周波数の下限が55Hzと、ほかの製品よりも比較的低めだ。今回の密閉型エンクロージャーと相性が良さそうだと思って選んだ。

デュアルコーン
また、フレーム外周にあるユニット固定用の"つば"が4つあるのも都合が良い。カーオーディオ用の10cmユニットでは、ここが2つだけであるものが多いのだ。もしそのユニットを固定する場合、ネジ留めのほかに接着剤による補助も必要になるだろう。
 
ただ、デザイン面では、シルバーの樹脂製コーンは安っぽく、特に中心の小さなコーンは光を反射してギラギラするので、あまり好みではない。

拡大。本当はダークな色味のほうがよかった
それでも、前面にパンチングメタルがくれば、それが適度に遮り気にならなくなるだろうと踏んで購入した。
 
手元に届いてから判ったことだけど、マグネットが妙に小さい。

しかも欠けている
じつはツイーターユニットなんじゃないかと思わせる径の小ささである。カーオーディオ界隈はさっぱりだからなんとも言えないけれど、廉価グレードであればこんなものなのか?
 

シーリング、吸音材封入

さておき、ドライバーユニットが届いたので、組み上げていく。
その前に、筐体内の隙間を埋めておく。内装の補修に使うシリコンシーラントの余りがあるので、それを隙間という隙間に塗りつけていく。

乾燥すると透明になる
底面部には、フェルトシートを貼りつける。デッドニングとして設けるものだけど、同時に貫通しているネジ穴を塞いでしまえる利点がある。

これだとMDFと干渉してしまうため、あとで少し切り落とした
ドライバーユニットを取り付けたら、そこにもシーリング。

ガッツリ塗りこむ
内部の配線は、BELDENの「STUDIO 708EX」を採用。こちらも、ちょうどよい長さが余っていたので。

OFCケーブル
吸音材として、100均ショップで買ってきたエステルウールを詰める。

ギチギチに詰める
今回は、容積ギリギリまで詰め込んでみる。本当はグラスウールにしたかったのだけど、予算的にオーバーだったので、入手の容易なエステルウールで代用する。
 
最後に、背面のパネルを固定する。
ここでもやっぱり、シーリングを施す。ただ、ここは一応見た目にも配慮して、マスキングテープで養生をしてから塗っていく。

ただ、厚く盛りすぎて、あまり綺麗には仕上がらなかった
ようやく作業は終了。作業内容はたいしたことないのだけど、時間がかかるものばかりだったな。

乾燥中
 

改修後の音

生まれ変わったS-01Sの音を聴いてみる。

完成後の姿
全体のバランスとしては、フラットに近いカマボコか。
当然ではあるけれど、低音がよく出てくるようになった。これだけ小さな密閉型エンクロージャーでも、十分な量感を保っている。やっぱりこれくらいないとな。
高音域は控えめなのかなと思っていたけど、けっこう伸びやか。精緻な音も拾い上げているようだ。耳に刺さらないギリギリのところで踏みとどまっており、不快感は無い。
 
フルレンジ単発ならではのカッチリとした定位と、混じりっ気のないドライブ感を有する。ボーカルはちゃんと中心に居て、随伴する音は横方向に自然に広がる。
反面、パース感は乏しく、一音一音の響きがややチープ。音域的な意味のレンジも凡庸となっている。このあたりは値段相応といえる。
 
周波数特性を見てみる。

周波数特性(KFC-E1056J)
波形は、S-01Sオリジナルとはだいぶ異なる。
低音域は、小さな密閉型エンクロージャーに収めてこれであれば、まずまずといった感じではないだろうか。聴感上はもう少し下まで出ているような感じだけど、60Hzくらいまであるかというと、さすがにそこまでは、といった具合だ。
 
高音域に見られる波形の乱れは、原因がよくわからない。聴感では特に違和感が無いので放っておいている。
個人的には、ここに1μFのコンデンサーでフィルターしたツイーターを被せたい気もしなくもない。
 

まとめ

この記事を作成している時点で、10時間ほど聴きこんでいる。感想としては、「思いのほか普通に聴ける」だ。

だいぶ手を加えてはいるけれど
カーオーディオ用品を据え置きのハコに収める所業は、今回が初めてのことだ。ちゃんと聴けるものなのかなと心配だったけれど、値段相応の性能はしっかり備えていることがわかった。そこはさすがに、カーオーディオに昔から注力しているケンウッドである。
 
いろんなドライバーを積んでみて音の違いを楽しむのが通なのだろうけど、いちいちシールを張り直さなければならないので、このまま長く楽しむことにしておく。もし次回開封するときが来るとすれば、背面にバスレフポートを設ける改造を施すときだろう。
 
終。
 

たまにはフルレンジスピーカーもいいものだ