いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

また YAMAHA NS-1000MM を3WAYネットワーク化する

ヤマハの小型ブックシェルフスピーカー「NS-1000MM」を改造してみた。その内容に関する自分向けの覚書のような記事。

 

再設計

このNS-1000MMに関しては、以前内部のクロスオーバーネットワークを改修して以来、断続的に中古品を入手しては独自に設計した3ウェイネットワーク回路を搭載して音を聴き比べてきた。

製品オリジナルの回路

オリジナルの周波数特性
ようやく、とりあえず現状ベストの回路設計が決まったので、ここにまとめておく。
 

コンセプト

年始に初めて手を出してから、組んでみた回路の数は派生も含めると20近くとなる。スピーカーの特性が徐々にわかってきて、考え得る改善策をあれもこれもと盛り込んでいくと、ただでさえ小型で内蔵スペースに限りがある本機に対して不釣り合いな量のパーツを導入する形になっていった。そして、それで音質は良くなるのかというとそうでもなく、むしろ能率が下がって音がぼやけてしまうほうが気になりだした。コストをかけてそうなってしまっては元も子もない。

以前のネットワーク回路。パーツの効率的な配置を考えるのも大変だった
そこで、いったんまっさらな状態に立ち返って、パーツ点数を最小限にしたシンプルな回路を組んでみることにしたのだった。
 
このあたり、JBLの「A520」パイオニアの「S-UK3」などの理念から影響を受けていることは間違いない。
 

MDF

各パーツを積載するベースとなるのは、2.5mm厚のMDF。切り出す寸法は長辺140mm、短辺95mm。

内蔵できるのは、おそらくこれが最大
面積をなるべく大きくとっておくのは配線スペースを確保する都合もあるけど、なにも乗っていない「余白」部を作っておくと、MDFをエンクロージャーの背面部にタッピングネジで固定する際に、エンクロージャーの外からロングシャフトのドライバーでネジ留めできる箇所が増えることのほうが重要である。
 

案1

データ

シミュレーションを駆使しながら構成してみたのが次の回路。

ネットワーク改修案1

案1の回路
ミッドのハイカット部を除いて、基本は12dB/octのフィルターでクロスさせている。下は3kHzあたり、上は12kHz前後でクロスするようなイメージ。
手持ちのマイクで収音した周波数特性は下のとおり。

案1の周波数特性
 

構成意図

まず前提となるのは、10kHzから12kHzあたりの高音域に見られる波形の乱れ。これはどうやらウーファーが悪さしてツイーターと共振していることがわかってきた。ツイーター単体で聴いているぶんにはさほど違和感は無いのだけど、ウーファーと合わさることで場合によっては疲れる音になることがある。
対処としては、ウーファーと並列しているコンデンサーに直列して3.3Ωくらいの抵抗器を差し込んであげるとある程度解消できるのだけど、その代わりに低めの中音域の張りが少し減退してしまう。もともとあまり能率感のある音ではないため、さらに勢いを削ぐような改修はなるべく避けたい。
10kHz以上の高音であり聴感上の影響は小さく、トータルとしては音の張りを優先したいため、ここはあえて無視する。オリジナルもそうしているようだし。
ウーファーは、オリジナルでは1.5mHのコイルとコンデンサーで組まれており、わりと中音域を抑えているような印象。ここは半分の0.8mHに落としてそこそこ出るようにしている。0.8mHという定数はコイルの入手性から指定しているのもあるけど、例えば0.6mHにするとボーカル帯域がわちゃわちゃしてくるので、小さくするにしてもこのあたりが限度だと思う。
コンデンサーの10μFというやや大きめの静電容量も、音の張り具合から選定している。ただここは、コイルを1mHに上げて、4.7μFにしてカットを多少ゆったりしてもいいかもしれない。

ミッドレンジ部
ミッドレンジは、オリジナルではハイカットされておらず、実質ツイーターである。ここでは、コイルを挿し入れてミッドレンジ動作としている。オリジナルの周波数特性を見るとわかるとおり高音が潤沢に出る機種なので、バランスをとって少し抑えているのと、音に立体感が出るようにと設けている。
ここは空芯コイルとしている。有芯だと若干詰まるような音になる。
 
入力すぐにある3.3μFのコンデンサーは、ミッドレンジにしては静電容量が小さいように見える。これは、このユニット自体あまり低い音が出るようになっていないようで、1.5kHz付近から下を聴感で聴き取れるくらいの音量で鳴らすと歪んでしまうため。以前4.7μFと0.33mHのコイルでフィルターを組んでみたことがあるけど、しばらく鳴らしていると徐々に歪む音域が広がって終いには音全体がガビガビになり故障してしまったことがある。
4.7μFを使うなら、決して単独では使わず、0.2mH程度の小さなコイルを合わせる必要がある。でも、そこまで攻めた調整をせず済ませたかったのと、今回は0.45mHのコイルを再利用したかったので、3.3μFとしている。
また、ここをフィルムコンデンサーとするか電解コンデンサーとするかで、音の雰囲気がけっこう変わる。フィルムコンデンサーでは高音に伸びの良さと高めの中音域に透明感が、電解コンデンサーだと中音域の実在感が得られる。どちらも悪くない。どれを選ぶかは人の好みだと思う。
 
ユニット並列の0.45mHのコイルは、オリジナルの有芯コイルを再利用している。コイルは新たに買うと高いので、なるべく既存を流用したかったのだ。言ってしまえば、ミッドレンジ部の回路構成はこれを中心に構成されている。

ツイーター部
ツイーターに関しては、オリジナルでは2.7μFのコンデンサーと0.45mHのコイルでフィルターされているのだけど、こちらも歪みこそ無いもののそこまで低い音が出るようなものでもなさそうなので、新しい回路では10kHz以上の高音域についてのみ担当してもらうように振り分けている。
 
1.5μFのコンデンサーは整備当初からオーディオ向けのポリプロピレンフィルム製としていた。しかし、ためしにポリエステルフィルム製にしてみたところ線が細くなりすぎずまとまりが良かったので、最近はそちらを採用するようになった。
 
ユニット並列のコイルは、0.15mH以上だとやや高音域がくどく感じるので、0.1mH程度に留めておく。有芯コイルでもいいけど、できればここは空芯にしておきたい。入手性と予算の都合で決定する。
 
ちなみに、ミッドレンジとは逆相で接続する。正相にしてみても変化はほとんどなかったため、オリジナルに倣っているだけである。
 

オリジナルのバランスに近い音が出る。概ねシミュレーションのとおりである。
高音重視のキラキラした元気なキャラクターだ。オリジナルほどシャリシャリしているわけでもなく、ストレートな中高音である。
これはこれで悪くないのだけど、長時間聴いていると聴き疲れしてくる。耳に刺さるような音はギリギリ出ていなくても、やっぱりミッドレンジのアッテネーターをもう少し強くしたくなってくる。パーツ点数を減らして能率感がアップしていることの弊害のような気がする。
反対に、ツイーターからの出力はもう少しあってもいい。
 

案2

データ

案1の結果を受けて再調整したのが次の回路である。

ネットワーク改修案2

案2の周波数特性

案2の回路
 

変更点

案1と異なるのは、ミッドレンジのハイカット用コイルの位置である。最後尾にいたものを手前に持ってきている。

ミッドレンジ部
構成パーツはとりあえずそのまま。フィルターのかかり方だけ変えて様子を見る。
 
また、ツイーター側はアッテネーターを少し下げたほか、正相にしている。この回路では逆相だと波形が大きく乱れたため。
 

全体のバランスとして、こちらのほうが自然である。
まず、定位感が明瞭になってスッキリしている。高音域が少し大人しくなり、煩雑さが低減したからだろうか。
案1ではミッドレンジが中心となってウーファーとツイーターはそれに付随するような印象だったけど、こちらはウーファーの存在感が増し、芯が出て安定感がある。スピーカーとして無難な鳴り方となっている。
オリジナルの味付けから遠ざかっても、音としてはこちらのほうが好み。
 

まとめ

あとは、アッテネーターの抵抗器の定数を少し調整する程度で、ひとまず3ウェイネットワーク化の整備はけりがついた感がある。これ以上は、今の自分の技術ではどうしようもない。
とはいえ、一時はパーツ点数が20個近くまで盛りこんでいたものが、9個まで削減できた。改善点であった能率感の低下もある程度解消されたので、満足である。

もうちょっと、ユニットの造りが良ければな……
ネットワークの考え方についていろいろ勉強になった機種だ。
 
終。