デノンのブックシェルフスピーカー「SC-F102SG」を入手した。その所感。
高級ミニコンポスピーカー
この製品は、2006年にデノンより登場した「D-F102」というミニコンポシリーズのスピーカー部である。
ミニコンポといっても、単品オーディオ機器をサイズダウンしたような印象の、いわゆる「高級コンポ」の類だ。
実は同時期発売された「CXシリーズ」の「SC-CX101」というスピーカーに興味があって、オークションサイトで良い塩梅のものを狙っているのだけど、納得できる金額でうまいこと落札できずにいた。
そんななか、このSC-F102SGを調べていたところ、当時のデノンがウリにしていた「ヨーロピアンサウンド」のエッセンスが、このスピーカーにもチューンされていることに気がつき、試しに入手してみたくなったのだ。
外観で特徴的なのは、エンクロージャーが突板仕上げであること。
さすが「高級」を謳うだけあって、見た目も妥協しないといったところか。ただ、次モデル以降は木目調のビニールシートになってしまったようで、残念。
見比べると、前面とそれ以外で若干色味が異なる。前面のみやや赤みが強く、杢目の濃いものがあてがわれている。この意匠を意識して手間をかけている点は好印象。
背面はバスレフポートとスピーカーターミナルユニット。
スピーカーターミナルのポストの形状が独特。黒とエンジ色の硬質な樹脂製キャップで、三角柱に近い。
高級感があるかというと微妙ではあるけど、樹脂製プレートにはメーカーロゴがあしらわれた特注品が使われていて、特別感はある。
ウーファーは、浅い丸皿のようなのっぺりとしたコーン。
化粧プレートが無く、ラバー製エッジがむき出しとなっている。モダンな印象を受けるこの形状は、ヤマハの「NS-BP200」やDALIの「ZENSOR 1」でも取り入れられていた。流行りなのだろうか。
ツイーターは一般的なソフトドームに見える。
音
出音を聴いてみる。駆動は普段使いしているAVレシーバー「YAMAHA RX-S602」。
傾向としては、フラット寄りのドンシャリ。
高音は、音源によってはやや耳障りに感じる音域があるものの、おおむね自然でひずみ感も少ない。透明感や奥行きよりも、「鳴らせる範囲を濃密に鳴らす」感じ。暖色である。
中音域はやや奥まっているものの、定位が感じられ違和感がない。スネアの音が適度に乾いていてバシッと鳴るので気持ちがいい。
低音は結構下まで出ている。ただ、量感は少ない。中高音の綺麗な音を邪魔してほしくないので、このくらいのバランスのほうが好みではある。
当時SC-CX101を試聴したことがある。ずいぶん前なので細かいことは覚えていないけど、歯切れがよく明るい音で、コンポスピーカーの中では明確にキャラ付けされた音だった印象がある。
単品オーディオにも対応するSC-CX101ほどでないにしろ、このスピーカーもペアで5万円する代物である。聴いた限り、それなりの性能を有していると言えそうだ。
周波数特性を見てみる。
波形からしても、聴感とマッチする。
3.5kHzあたりがやや沈んでいる。クロスオーバー周波数付近なのでその影響だろう。
分解
中身を見てみる。
開口は、前面と背面の見えるネジを外すだけ。すべてタッピングネジ。
ただし、ツイーターユニットだけはかなりしっかり嵌っており、取り外すのに苦労する。
ユニットと筐体の接合面に空気漏れを防ぐ目的であろうゴム系の何かが塗られており、これが接着剤代わりとなっているようだ。内部側から押し出すようにして、ゆっくり慎重に作業するしかない。
エンクロージャーはMDF製。内部には、吸音材として前面と背面以外にグルリと化繊ウールのシートが巻かれるように置かれている。
両側面と天面には、板材が括りつけられている。
側面の四角い板は7mm厚。天面の円形の板は19mm厚。
すべて吸音材の下に埋もれている状態なので単純に補強だと思うけど、わざわざ円形にしているのはどんな意図があるのだろうか。
天面部に円形の板材があるスピーカーは他メーカーでも見かけたことがあるので、なにかしら意味があるのだろう。
ウーファーもなかなかユニーク。
まずはコーン。これ、2層になっているらしい。外部に見える皿状の振動板の内側に、材質の異なるすり鉢状のものが隠れるように配置されている。「DDL(DENON Double Layer)コーン」と呼ぶらしい。
これはどういう原理で音が出ているのか、よくわからない。内側にあるコーンは、鳴動したとしてもいったいどこから音が出てくるのか。そもそも、2枚の振動板がひとつのエッジで支えられていると、互いに干渉してビビりそうな気もする。
このあたり、自分の理解に遠く及ばない技術なのだろう。
次にフレームの素材。ユニットを持ってみた感じではそこそこ軽いので、金属ではないだろうと思っていたけど、鋳鉄みたいな見た目をしているうえ、かなり硬そうである。
ウーファーのような低音域を担うユニットのフレームは金属で構築して、共振を剛性と自重で強制的に抑えつけるのが現状ベストだろうと思っていたけど、この素材なら代用できるんじゃないかという気がしてくる。
ツイーターも同じ素材でプレートが作られているようだ。
こちらはマグネットがネオジウムマグネットらしく、軽量なうえにかなり薄い。実に現代機っぽい。
クロスオーバーネットワークは、開口面積を広くとられたスピーカーターミナルユニットの裏にある。
こちらも、コンポ用スピーカーとは思えない物量を投入して回路を組んでいる。
また、5μFのコンデンサーはポリエステルフィルムなのに対し、0.22μFはポリプロピレンフィルム、6.8μFは電解コンデンサとなっており、不思議なチョイスである。音作りの一環なのか、単に大きなフィルムコンデンサーを置くスペースが無かったのか。
コイルは空芯コイルを採用している。
さらに、共振回路を組んで、800Hzから1kHzあたりにかけて若干出力を落とすという大胆なこともしている。たしかに、いろんなスピーカーを見ていると、この辺りの周波数帯域は波形上不自然に盛り上がっていることがある。コイルを挟んで抑えようとしてもその影響はわずかで、むしろ音全体が萎んでしまう。それをこのスピーカーでは、ほかの音域の影響を最小限にしながら所定のポイントをなだらかにしている、ということなのだろう。
「ヨーロッパのサウンドデザイナーと共同開発」した成果が、ここに表れているのかもしれない。
整備
今回は、音の性格決定に支配的なネットワーク回路には手をつけないことにした。
するとしても、電解コンデンサーをオーディオグレードのものに交換するくらいしかない。それもどの程度意味があるのか疑問なので、搭載パーツに問題が無ければ無理に弄ることもない、とした。
変更するのは、内部配線とスピーカーターミナルだ。
既存のビニールコードをすべて引き換える。
ケーブルはBELDENの「STUDIO 708EX」。OFHCケーブルである。
チョイスの理由は、それなりに信頼しているケーブルであることと、ネットワーク基板のホールにそのまま入りそうな断面積だったから。
スピーカーターミナルは、今回新たに購入してみた透明樹脂製のキャップに変更してみる。
既存のエンジ色のキャップが黒と識別しづらいから交換したかったのだけど、新しいほうもこれはこれでカラー帯が見えづらく、改善ならず。失敗だった。
結局、いつもの六角ナット型の安い樹脂製キャップがベストなのか。
整備後の音の変化は、ほぼ感じられない。
ケーブルの変更の影響か音像がくっきりした気もするけど、ちゃんと聴き比べたわけではないし、たぶん気のせいだろう。
まとめ
デノンは以前高級機「SC-A77XG」を整備してガッカリした経験があるので、今回はあまり変な期待を持たずにいたのだけど、造りはしっかりしているし、音も艶っぽくて楽しめる。本当に同じメーカーなのかと訝しみながらも、良い製品も作っているんだなとちょっと安心するなどした。
ただ、本命はあくまでSC-CX101である。SC-F102SGで音の傾向がわかったところで、比較もしてみたいところだ。
終。