FOSTEXの1970年代のヴィンテージスピーカー「G103」のドライバーを、現行機「FE103NV2」に乗せ換えてみた。その所感。
リビルド
本当は
実のところ、このG103というスピーカー入手当時は、ドライバーユニットもオリジナルのままでリファインするつもりだった。
しかし、分解してみると片方のユニットのダンパーがやや硬直していることに気がつき、それが出音にも影響しているようなので、急きょ別のユニットを調達して乗せ換えることにしたのである。
成り行きで作ることになったのだった。
状態
半世紀前のスピーカーであるはずだけど、手元にあるのはかなり状態の良いもので、綺麗。
外観に大きな傷や割れがない。ちょっとぶつければ簡単に欠けそうな角も、ほぼそのまま。
ウォルナット突板の贅沢な仕上げも、往年の姿を留めているようだ。
前オーナーも中古で手に入れたとのことだけど、かなり大事にされてきたことが窺える。
音
とはいえ、前述のこともあって、元来の音をしっかり聞けていない。
傾向として、中音域に寄ったカマボコで、かなりハキハキした音であったことはわかる。この点は、製造年が近い「Technics SB-30」を以前整備したときの、少しくぐもった音を想像していたので、意表を突かれた。
70年代当時の音をステレオで聞けないのは残念だけど、仕方がない。
分解
元のドライバーユニットは、そのうちダンパー交換作業の練習台になってもらうとして、取り外したらどこかに保管。同口径で容易に取り付けられそうな、FE103NV2を2基発注。
それが届くまでの間に、分解し整備していく。
すると、背面まで貼り付けられたグラスウールがお目見え。
バスレフ型でも、しっかり吸音する設計だ。筐体を組んでいる合板がそれほど厚くないから、不要な振動を抑えるためだろうか。
取り付けられているドライバーは、若干錆びている。
グラスウールを吸音材に使用していると、よく見られる現象。
今回新たに取り付けるドライバーも同様のことが起こりうるので、できればほかの吸音材に換えておきたいところだけど、金欠で断念。それに、グラスウール自体は吸音材として優秀だから、そのまま残しておきたい気持ちもある。
グラスウールを剥がし、フロントバッフルを留めているネジにアクセスする。
こちらも背面と同様、8点留め。
バッフルは、サランネット、ドライバーユニット、バスレフダクトが固定されている。
ユニットを留めている細いボルトは、前面からでないと取り外せない。しかし、そのためにはサランネットを剥がす必要がある。
一応、ナットを外すだけでユニットは取り外せるので、今回はサランネットは弄らない。というか、別のスピーカーでネットの張替え作業をしたばかりで、気力が湧かない。
ユニットの固定は、特段シーリングされているわけではなく、木製のバッフルに直付けされている。
取り外すのは簡単だけど、一応バスレフ型スピーカーなので、新たに取り付けるユニットにはなんらかのシールをしておきたい。
整備
パッシブネットワークはないので、電気的な整頓よりもエンクロージャー側の補修のほうがメインとなる。
エンクロージャーのコーキング
まずは、筐体の密閉度をあげることから。
合板のいたるところに隙間があるので、それを埋めていく。
用意したのは、「ジョイントコークA クリア」。
これを、文字通り内部の隅々に擦り込んでいく。
これを機にヘラも揃えようと思っていたけど、買い忘れたため、自作する。余っていたMDF板を切り出しただけ。
でも結局、ノズルの先端をやや鋭く切って直接擦り込むほうが簡単だったので、すぐにお役御免となってしまった。見えない箇所なら、それで十分だった。
再塗装
フロントバッフル型の縁は、黒の塗装が施されている。それを、上からアクリル塗料で塗りつぶしていく。
色落ちはほどほどだったので、ここは何もしなくていいかなと思っていたけど、いざ塗り直してみるとコントラストが上がり、組み上がった際にバッルフが浮いているように見えるのだった。塗っておいて正解。
オイルフィニッシュ
エンクロージャーの表面は、オイル仕上げにする。
いつものように、ワトコオイルナチュラルを塗り込む。
今回の工程は、
- 400番空研ぎ
- オイル塗布
- 400番油研ぎ、拭き取り
- オイル塗布
- 800番油研ぎ、拭き取り
- 一晩放置
- 余分なオイル拭き取り
- 1500番空研ぎ
- 2000番空研ぎ
となった。
元が綺麗なので、研ぎは機械ではなくすべて手動で行う。
背面の加工
今回、背面パネルの表裏を大改修する。
スピーカーターミナルとケーブルの変更
スピーカーケーブルのバナナプラグに対応するためには、当初既存のポストを取っ払い、新たにベースを設けたうえで直付用の大型ポストを配備するつもりでいた。
しかし、後述する新しい吸音材との取り合いが面倒であることに気付いたので、既存のポスト部を加工して新しいポストを取り付ける形に変更する。
マイナスドライバーで締め上げるようなタイプの金具を、すべて外す。
ベースとなる硬質な樹脂プレートは再利用する。
ただし、孔の径を6mmに拡張をする必要がある。そのままでは新しいポストが通らないためだ。
シャフトがかなり短めのドリルビットを見つけたので、小型のグリップと一緒に購入してみた。
今回のような穴の拡張程度の加工には、ちょうどいい感じ。
なお、汎用的なポストの軸は4mm径だけど、今回用意したものは根元がやや太くなっており、6mmが必要だった。
ここの孔は、大は小を「兼ねない」。モノに合った大きさを開けたほうが、後々ポスト本体を取り付ける際に位置決めをしやすい。
新たに引っ張るケーブルも、せっかくなのでフォステクス製にしてみる。「SFC103」である。
初めて扱うケーブル。音の特性は知らないけど、特別悪い評判は無さそう。
ケーブル両端にファストン端子を設ける。いずれも205型。
先に、組み上げたスピーカーターミナルと接続しておく。
背面のシール
エンクロージャーの大半はコーキング材で固めたけど、背面だけはメンテナンスできるよう開けられるようにしておく。
今回いちばん悩んだのが、この部分のガスケットである。
お金があれば、バイク用品にあるようなガスケットシールを使うのがベストだろう。されども、貧乏人にはそこまで大枚をはたけない。
別件で東急ハンズに寄る機会があったので、資材売り場をウロウロしていたら、ビニールシートの端材がセールとなっていた。これは使えるかもと確保。
0.1mm厚。本当はもう少し厚みがほしいところだけど、とりあえずこれでやってみる。
背面パネルとその受け部分の間に挟まるよう、だいたい1.5cm幅で短冊状に切り出す。
それを、背面パネルの裏側の周囲に貼る。使用する接着剤は、塩ビにも対応の木工用多用途ボンド。最近出番が多い。
貼り付けたら、パネルをエンクロージャーに戻して、仮留め。これは、接合面の凹凸にシートを馴染ませるため。
塩ビのシートは、やはり0.1mmでは薄すぎるようだ。0.3mm厚程度が汎用的で良い塩梅かもしれない。
吸音材の変更
吸音材のグラスウールは、少々多すぎる気がする。
背面だけゴムスポンジシートに変更する。これも、東急ハンズで見つけたもの。
適当な大きさに切り出し、これも背面パネルの裏側に貼り付ける。
このシート、片面に両面テープが付いていて、その粘着力が思いのほか強い。
特別下準備しなくても、貼り付ければしばらく落ちてくることはないだろう。
スピーカーターミナルの取付け
ここまで作業を済ませたら、スピーカーターミナルを背面パネルに取り付ける。
タッピングネジが留まっていた穴を貫通させ、M4のトラスネジとナットで固定する。
ネジは、暗めのブロンズメッキ製が余っていたので、それを使用。見た目がクラシカルで、スピーカーの雰囲気とマッチする。
ドライバーの固定
注文していたFE103NV2が到着したので、あとは組み上げるだけだ。
付属品にはネジのほか、専用のガスケットシートもある。
当然使用する。ただし今回は、バッフルの裏側に固定するため、ユニットの前面側に挟むことになる。
既存のM4のボルトを再利用し、ナットで固定する。
ドライバーユニットが固定された前面バッフルを筐体に固定したら、その接合部にもコーキング材を流し込む。
背面パネルの木ネジを締め、「JBL J216 PRO」の整備でも使用した「木のはがき」に外注したラベルステッカーを貼って鉄鋲で留めれば、完成。
音
さっそく音を出してみる。
環境はいつもの通り、ヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。
中高音のニュアンスが良い。濃密でメリハリがある。
フォステクスのユニットはいわゆるハイ上がり気味のものが多いらしく、このユニットもそんな感じだ。
よって、低音域はバスレフが利いているとはいえ、控えめ。10cmコーンの限界もあるだろう。それでも聴こえないわけではなく、必要最低限といった感じ。
低音がそれほど必要なく、中高音が濃密に鳴ってくれるほうが好みなので、全然問題ない。
音場は広めで、フルレンジっぽくない。しかし、定位は安定している。このあたりは、フォステクスのスピーカーの音をあまり知らないので、相対的にはどの程度のものなのか測りかねる。
低音の量感を求めなければ、どんなジャンルでもそこそこに鳴ってくれそう、という印象。
まとめ
ドライバー、ケーブル、エンクロージャーの新旧「103」の番号を冠する部材で組み上げてみた。
元の音を聴けていないのが残念だけど、生まれ変わったG103は、机の上で小気味良い音を奏でている。
古いスピーカーに耳が慣れてしまっている状態で、最新機種の音を聴いてみたわけだけど、長年自作スピーカー界隈で定番となっていることもあって、だいぶ洗練されているのだなと感じた。
正直なところ、10cmフルレンジ一基だけではショボいのだろうと思っていた。認識を改めなければならない。
音楽を「良い音」で聴きたいのであれば、古の骨董品スピーカーを使う理由なんてないのだな。
「自作スピーカー」の領域に片足を突っ込んでしまったけれど、これ以上浸かるつもりは今のところない。それでも、今回の整備でそれが魅力的であることは十分に分かったのだった。
終。