いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

Pioneer S-ST5-LR をメンテナンスする

イオニアのエッジレススピーカー「S-ST5-LR」を入手したので、音を聴いてみる。
また、分解して特徴的なユニットを見てみる。

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エッジレス

前面パネルからやや奥まった位置に固定されているウーファーは、コーンの外周にエッジが無い。メーカーでは、これを「リニアパワー方式」と呼んでいる。

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エッジレス構造のウーファー
エッジの無いほうが鳴動に都合が良い旨の説明がある。自分はむしろ、エッジがあるおかげでコーンが振動できるのだと思っていたけど、そういうものでもないらしい。

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Pioneer S-ST5-LR
12cmコーンの材質は不明。センターキャップを含め、なんとなく目の細かい発泡スチロールのような感じ。
 

改修前の音

小型の割に、再生周波数の下は55Hz。かつ前面下部にバスレフポートが大きく口を開けている。

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ちょっと不釣り合いにも見える
低音重視のスピーカーなのかと思っていたけど、鳴らしてみるとそれほどでもなく、少し拍子抜け。
どちらかといえば、中音域が厚い音だ。低音は体積なりといったところで、80Hzあたりまではハッキリ聴こえるけど、それより下はバッサリ切れている感じ。
同シリーズにサブウーファーがあるので、低音域はそちらに任せる想定なのだろう。
 
高音域には特筆すべきものが無い。60kHzまで出音できるというツイーターを備えているものの、特段煌びやかというわけでもなく、マイルド。

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透明の樹脂のようなものが振動板なのだろうか
音場はやや狭い。音の直進性が強いというか、「スピーカーから音が出ている」聴感があって、広く深く鳴らすものではない。
左右どちらか単体で鳴らすと、モノラルなのにステレオ再生のような広がりを感じるけど、実際に2ch再生するとなぜか逆に狭まる、不思議な音。
 

分解

筐体

このスピーカーは、前面パネルとその他が4点のネジで緊結され、それを外せば分離できる。
ただし、ネジはすべて前面保護用のパンチングネットを嵌めるゴム製のほぞ穴の奥にあるため、まずはゴム製のパーツを取り除く必要がある。
ほぞ穴に適当な棒を突っ込んでほじくり出す。

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マイナスドライバーでほじった
この方法だと内部を傷つける可能性が高いので避けるのが賢明。
代替方法として、穴の縁をピンセットのようなもので少しずつ持ち上げるように引き抜くこともできる。だけど、時間がかかるうえ面倒だったので、逃げる。

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俯瞰
ポリプロピレンの硬質なエンクロージャーは、真ん中辺りがスピーカーユニットの大きなマグネットを包むように絞られている。
クロスオーバーネットワーク基板は存在せず、あるのはスピーカーターミナルのポストと、バスレフポートを包むように置かれたフェルトの吸音材のみ。
 

ユニット

やたらと大きなマグネットを抱えるウーファーユニットを見てみる。
 
このスピーカーの筐体の中心部は、背面までほぼウーファーユニットが占めていることになる。
また、スピーカーターミナルからユニットまではケーブル直付け。ユニットの性能が不明なので断言できないけど、フルレンジ+ツイーターの組み合わせなのかもしれない。
ちなみにツイーターへの渡りは、ウーファー側から分岐したケーブルに、ラジアルリードをアキシャルっぽく造り替えたと思しき1.5μFの電解コンデンサーが付いているのみだ。

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よくわからないメーカー
さて、なんでこんなに奥行きがあるのかと眺めると、長いボビンに2枚のダンパーがだいぶ離れた間隔で配置されていることがわかる。

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横から見た図
なんでわざわざ動作効率に支障が出そうな恰好をしているのかわからない。エッジでコーンを支えられない分、芯を出しながらしっかり支持する役目を2枚のダンパーに委ねているのだろうか。

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2枚のダンパー
本来1枚で賄えるところを2枚にしたのだとしたら、エッジを無くしても代替の保持物が増えたことになるので、エッジレスの旨味が無くなる気がするけど、どうなんだろう。
 
バスレフポートもやはり背面近くまで伸びていて、筐体側のポートに入れ子のような形で収まる。つまり、ダクト内の空気の出し入れの際は、ポート同士の狭い隙間をS字を描くように進まなければならない。バックロードホーン型のダクトのように、距離を稼いでいるわけだ。
 

整備

最近大々的に改造することが多かったので、今回はそこまで手を加えることはしない。とはいいつつ、気になる点は改良してゆく。
 

コンデンサ

先で確認した通り、このスピーカーのウーファーはケーブル直付けであり、ツイーターは電解コンデンサーが直列でひとつ付いているだけ。
エンクロージャーに内蔵できる程度の簡素なネットワーク回路を新規に組んでみようかとも思ったけど、最近自分の中で持ち上がっている整備方針「直結ユニットは直結のまま」に従うことにした。よって、コンデンサーの交換のみに留める。
 
換装用に用意したのは、現在秋葉原秋月電子通商で売られているFaithful Link社のメタライズドポリエステルフィルムコンデンサー。

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1個45円(時価
1.5μFという小さめの容量のラインナップがあることと、以前JBL 4312Mで使用して良好だったこと、何より安価なので採用。ポリプロピレンに拘らなければ、これで十分。
 
既存のコンデンサーを切り落としたところに、適当にはんだ付けするだけ。

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リードも適当にフォーミング
 

スピーカーターミナル

背面にあるプッシュ式のスピーカーターミナルを、バナナプラグ対応に変更したい。
しかし、既存のターミナルユニットの寸法に合うパーツが既製品で見つからなかった。
よって、今回は既存は残置とし、別の位置にポストを設けることにした。

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ターミナルユニットは、筐体内部からネジ留めするタイプ
用意したケーブルポストは、やはり秋葉原のトモカ電気で手に入れたバラ売りのもの。これを背面に取り付け、既存のスピーカーターミナルと並列で接続する。

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ケーブルのバインド端子が付いているのはありがたい
新しいポストの位置は、既存のプッシュ式ターミナルの傍がよかったのだけど、このスピーカーのエンクロージャーの背面は緩く弧を描いていて、そこに取り付けるとなると筐体側の加工が必要になる。美しく仕上げられる自信が無かったのと、何より手間なので、唯一平面となっているウーファーユニットの収まる真後ろに配備することにした。
 
エンクロージャーに孔を開ける。

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なんでこんな縁ギリギリの位置に開けだんだ……
特に考えなしに開けてみたら、二つのポストの間隔が広すぎた。もう少し狭めておけばよかったな。
新しいポスト用のケーブルは、既存のケーブルから分岐。いたって単純。

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この大きさのターミナルなら、ウーファーユニットとギリギリ干渉しない
 

吸音材

このスピーカーにある吸音材は、下部にある広いバスレフダクトの周りと、ウーファーのマグネット中心部にあるちょっとした窪みに詰められたフェルト。
手元にウールが余っているので、ツイーター周辺の何もない空間にも詰めて音の変化を確認してみる。

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ウールは、内部のケーブルの物理的な"抑え"も兼ねている
 

改修後の音

YAMAHAのAVレシーバー「RX-S602」に繋いで試聴。
吸音材増補の影響か、明らかに低音が出てくるようになった。共振周波数にズレが生じたのだろうか。
 
これにより、現代ソースでは据わりがよくなった。EDMなんかを聴くと、歯切れの良さと量感がちょうどよく、全体のバランスとして安定している。物足りなさが解消された感じ。
ただし反対に、80年代シティポップあたりを聴くと、曲によっては中低音、特に200Hzあたりがややボンついてしまい、悪い意味で耳に残ってやや鬱陶しく感じることもある。
吸音材は適当に詰めたので、量の調節が必要なのかもしれないけれど、あちらを立てればこちらが立たずといった印象で、ここをしっかり両立する技術は自分には無さそう。

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再組立て後の姿
高音域は、改修前とそれほど変化が無い。
HPFのコンデンサーをフィルムコンデンサーに換装しているので、周波数特性上は改善しているはずだけど、かなり高い周波数帯を担っているため、耳では音の変化を感じにくいのかもしれない。
 

まとめ

エッジレススピーカーは、よくわからないことが多い。
コーンの縁のエッジが無い部分は、多少なりとも隙間があるはずで、空気の出入りがあるから密閉型エンクロージャーに組み込むのはナンセンスなのかとか、この構造が本当に高効率なら、なんで今も従来の"有エッジ"のユニットが主流なのかとか。

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面構えは悪くない
ほかのエッジレススピーカーはまた違うのかもしれないけど、この構造が従来品と比べて優越性を帯びているようには特段感じられなかった。
 
とはいえ、決して音が悪いわけではなく、ソースによっては唯一無二の親和性を発揮する。
「じゃじゃ馬」という言葉が似合うかもしれない。
 
終。
 
(以下資料)

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