1970年代の国産ヴィンテージスピーカー「Technics SB-30」が手に入ったので、整備してみる。
入手時の状態
かなり状態の良いものが入手できた。
発売からちょうど半世紀となるこのスピーカー、中古市場でも見るからにボロボロのジャンク状態で出品されていることが多い。
しかし、こちらはエンクロージャーに所々欠けがある程度で、9cmフルレンジユニットのエッジに破れも無く、当時のまま。ひとえに前オーナーの物持ちの良さの賜物だろう。
今回もほかと同様、現代化させるとともに、くたびれた外装のリファインも行う。
当時の雰囲気を残したいので、現代的な改修は極力行わない。
音
現代まで続く出音のワイドレンジ化の黎明期のスピーカーであり、現行機と比べればさすがに聴くに堪えない音ではある。奥行き感が無く、詰まったような音。安いラジカセのほうがマシだ。
とはいえ、レコードプレイヤーの時代の、小型フルレンジ一発のスピーカーだ。そこまで求められていた製品とは思えない。
また、このスピーカーは密閉型だけど、低音域改善のためにバスレフポートを設ける改造が定番のようだ。
しかし、自分の環境で聴く限りでは、そこまでする必要は感じない。たしかに得意ではなさそうだけど、全体のバランスでいえばそこそこ低音は出ている。チーク材で仕上げた綺麗な筐体にわざわざ孔をあけてまで弄ることはしないでおく。
自分の技術では、たぶんこれ以上音は良くならない。
分解
エンクロージャー前面にあるアルミフレームは、分離できる。8点留めのネジを外す。
実のところ、この部分は分離しなくても内部アクセスに影響はない。今回は、アルミ部分を研磨するために取り外す。
筐体の内部を覗くには、フルレンジユニットを留めているプラスネジ4点を外すだけ。
ユニットへのケーブル接続は、平型端子。
背面のスピーカーターミナルも、単純にネジを外すだけ。
吸音材は、約1cm厚のウール系のものが背面側に置かれている。
整備
ユニットは弄らず、内部配線の引換えのみに留める。長さ10cm程度のOFCケーブル。
分離させたアルミフレームは、アルコールで表面の汚れをある程度落とした後、ピカール液と真ちゅうブラシで磨く。
四隅の90度に曲がっている部分は、金属疲労でだいぶ脆くなっており、曲がりを戻そうとすると簡単に割れてしまう。
別に分割してしまっても組み立てに支障はないけど、割れた部分は鋭利になっているので、やすりなどで丸める手間が増える。よって、基本的に割る必要はない。
今回は研磨する都合上、一部あえて分割した。
素人の適当な研磨でも、それなりに綺麗にはなった。
エンクロージャーの欠けた部分は、パテで埋めてみることにする。
ホームセンターで手に入れたエポキシ樹脂系パテ。使うのは、今回が初めて。
2液混合型なので、必要分量を取り出して練り合わせる必要がある。
硬化後にやすり掛けするから、その際に簡単に剥がれてほしくないなと思いこれにしたけど、もっと簡便なアクリル樹脂系でもよかったかもしれない。
なお、色が明るいA剤はほぼ無臭。B剤は独特の臭みがある。二つを練り合わせると油絵の具のような臭いになる。
素手で触ると臭いが移るうえ皮膚がガサガサになるので、手袋は必須。
患部に適当に盛り付けた後、指先で形を大まかに作り、硬化後にデザインナイフなどで細部を整える。
定番の「ワトコオイル」を用意。前々から使ってみたかった。
どうせならサラサラの手触りにしたかったので、オイルを塗りたくる前に、表層を削って整えておく。
試しに筐体の底面を紙やすりの400番で擦ってみたところ、すぐに四隅から下地が出てきてしまった。
よって、今回は800番で軽く擦る程度にしておく。でも、仕上がった後の手触りは400番を掛けた面のほうが滑らか。
塗ってから20分ほど放置。オイルを拭かずに1500番を掛ける。その後拭き取って、再度オイルを塗って一晩放置。
余分なオイルをすべて拭き取っても、しばらく時間が経つと内部から浮き出てくる箇所がある。それを、またウエスで拭き取る。
バナナプラグ対応のターミナルユニットを付けて、完成。
まとめ
音の面では変化は無い。今回の整備は、オイル仕上げのエンクロージャーを仕上げる練習の側面が大きい。
まずは目立たない底面を塗装してみたのは正解だった。塗料に記載の塗装方法は、素面の木材の表面に施す場合であって、何かしらの仕上げが施された面には不適であることがわかった。
手持ちのスピーカーには、ほかにも仕上げを整えたいものがいくつかある。だいぶ手間はかかるけど、意外と見てくれが重要なのがスピーカーなので、手を加えていきたい。
終。
(以下本文中に載せきれなかった写真)