いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

JBL Control Wave をメンテナンスしてみる

JBL Controlシリーズの3WAYスピーカー「Control Wave」を分解、整備してみた。
 
 

「WAVE」

最近「JBL 4312M II」を整備したり、サブスピーカーとして「JBL Control 3 pro」を使用していたりと、自分の好みの音を持つものが多いJBL

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JBL Control Wave
しかし、このWaveもControlシリーズだけど、3 proと同じようにインターネット上に詳細な情報がほとんどない。自分がこの製品の存在を知ったのも最近のことだ。
初代「Control 1」は未だに中古品が大量に出回っている最中、Waveは全然見かけない。大ヒットしたシリーズのなかでも、短命な製品だったのだろうか。
 
オークションサイトなどを巡回中、偶然タイミングよく見かけて、入手できた。
 

改修前の音

いつものように、YAMAHAのAVレシーバー「RX-S602」に接続。スピーカーケーブルは、アンプ側をバナナプラグ化しスピーカー側には棒形端子を圧着した「BELDEN 8470」。
 
音としては端的に、Control 1の音場を広めた感じ。
中音域はControlシリーズのエネルギッシュな「塊感」を保ちつつ、解像度が上がっている。最低音域はやはり弱めながらも、高めの低音域が程よく出ていて安定感が増している。3WAYらしく、上下に広がる包むような音場である。
 
絶妙なバランス。Controlシリーズの音が好みなら、一聴の価値はあると思う。
なんでヒットしなかったの? これ。と思ったけど、当時の定価がペアで90,000円弱と知る。高いな。
 
このスピーカー、設置環境が過酷だったのか傷だらけで、前面グリルは一部錆びていたり凹んだりしている。屋外で使われていたのか、いたる所に泥跳ねの跡やペンキのようなものが付着している。
前面パネルにあるエンブレムも、片方は欠けて紛失していた。

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このパーツは欠損しやすい構造なので、仕方がない
それでもちゃんと音が出ているのは、さすがである。
 

分解

分解する。情報がないので、手探りで解剖していく。

前面グリル

分解できそうな箇所として真っ先に手を付けたのが、背面にある6つのネジである。

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背面
ここを外すとネットワーク基板がパネルごとヌルリと引き出せるのかと思ったのだ。
しかし、プラスドライバーですべて外してみるも、パネルはビクともしない。
観念して、一番手を入れたくない前面のグリルを外してみることに。
 
グリル越しに各スピーカーユニットを固定している六角穴のネジが見えるので、ここが外れないことはないはずなのだけど、開閉機構らしきものは無い。力ずくでこじ開けるしかない。
 
四隅のどこかしらにマイナスドライバーのようなものを突っ込んで、少しずつめくりあげるように持ち上げる。工具を差し込むとグリルはほぼ確実に変形するので、外見上目立たない位置を選ぶのがベター。
 
この構造、おそらくもともとは嵌め込んだグリルを四隅のゴムで押さえるだけで、固着はされていないように見える。
だけど、手元にあるのは30年モノである。四隅の黒いゴムはタールのようにドロドロに劣化しており、実質接着剤と化してしまっている。
 
そのままグリルを剥がそうとすると、確実に変形する。
四隅にライターオイルを流し込み、しばらく置く。劣化したゴムをなるべく軟らかくしてからグリルを慎重に持ち上げ、変形を最小限に抑える。

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多少の変形は致し方ない
この作業がとにかく気を遣う。いきなり最大の難所だった。

スピーカーユニット

グリルを外すと、ようやくパネル内部のネジにアクセスできる。前面パネル自体を固定している6つの六角穴のネジを外し、エンクロージャーから分離する。

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前面パネルを取り外した状態
各ユニットにも泥が付着したまま。
ウーファーとミッドレンジは同じネジだけど、ツイーターだけ穴の径がやや小さいネジが使用されている。
ここは手持ちの工具に合うものがなかったため、ヘックスローブのドライバーで無理やり回すことになった。

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ウーファー。「313TNC」

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ミッドレンジ。「412TNF」

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ツイーター。「58P60DH-01HD C5 WAVE 312TND」

清掃

吸音材としてニードルフェルトが比較的上方に接着されている。バスレフポートを避けるように、片側に寄っている。

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吸音材を剥がした状態
プッシュ式の小さなスピーカーターミナルに、ネットワーク基板が直ではんだ付けされている。
そのすぐ上部に、ナットが2つ上下に並んでいる。

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フェルトで隠れている

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こういうパーツが、いかにも業務用っぽい
これは、ワイヤー緊結用と思われる金具を固定しているもので、下のほうを取り除くとようやく背面パネルが外せるようになる。

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背面パネルを取り外したところ
エンクロージャーが内部も含めてとにかく汚れている。
拭き取っているときりがないので、丸ごと水洗い。一晩屋外干し。

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だいぶ綺麗になった
各ユニットも可能な限り清掃。ウーファーのコーンの仕上げに少しだけ剥離があるものの、エッジの劣化は皆無で、機能面に問題なし。

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チタン蒸着のダイヤモンドツイーター

ネットワークの整備

ネットワークの改修。
小さな基板にパーツが所狭しと並んでいる。

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ネットワーク基板
ウーファー用に直列のコイルと抵抗器。ミッドレンジ用に直列のコンデンサーとコイル、ツイーター用に直列のコンデンサーとヒューズランプ。
 
なお、ミッドレンジは逆相。

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基板裏面
電解コンデンサーは、1割から2割程度、容量が増加していた。これらはすべて換装する。
また、宙に浮いているヒューズは撤去する。
 
新しいコンデンサーは、ツイーター用に「WIMA MKS2 3.3μF」、ミッドレンジ用に「ニチコン MUSE ES 10μF」。容量は既存と同じ。

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いずれも耐圧50V
ミッドレンジにもフィルムコンデンサーを配するか迷ったけど、Controlの特性を重視し、今回は電解コンデンサーとした。

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小さくて乗せやすい
前面のグリルは、メンテナンスしやすいように開閉機構を設けたかったけど、良い方法が思いつかなかったので、接着剤で固定する。ただし、上下各1か所の計2点のみに留めた。
 

改修後の音

とりあえず70時間ほど鳴らし込んだ状態の音。

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縦長の筐体は、大きなディスプレイの横に置いても映える
全体的な傾向は、改修前とほぼ変わらない。音場、定位感、そのままである。
 
中音域にやや色が付いたようにも感じるものの、自分の体調で聴こえ方が変わる以上の変化ではない。
高音のザラついた感じは減って、綺麗に鳴る。これについては、フィルムコンデンサーに交換するとControlらしさが失われるといわれることもあるけど、本件においてそんな印象はない。
 
ネットワークのコンデンサーはそれほど劣化していなかったのに加え、内部の改修は実質的にコンデンサーの換装程度にとどまっているため、大きな変化がなかった可能性が高い。
 

まとめ

とにかくグリルの取り外しに神経を使う。樹脂製のパネルに傷を付けないように取り外すのは至難。劣化したゴムの除去も手間がかかる。
30年以上使われることを想定して設計されていないだろうから仕方がないけど、もう少しメンテがしやすい造りになっていてほしかった。

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サランネットのように破れないのは良いけど
とはいえ、音は良い。
ズンズン響くような低域を求めず、Control 1では物足りなさを感じるのであれば、乗り換えの候補にあがる。
 
筐体の奥行きが短く、幅も狭いため設置しやすい。また、高い位置にツイーターがあるので、一般的な机に直置きして椅子に座れば、ちょうど耳の高さにツイーターが来る。
 
同じ3WAYの4312Mと比べれば、どうしたって奥行きや解像度に見劣りするけど、不人気故大幅に安く手に入る可能性がある。流通数が少ないので、じっくり待つ必要はあるけど。
 
終。
 
(以下資料)

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