いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

JBL 4312M II をメンテナンスしてみる

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JBLのコンパクト3WAYスピーカー「4312M II」を分解し、内部をブラッシュアップしてみた。その作業内容と、音に関する所感。

 

経緯

4312M IIは、以前手にしたことがあった。

morning-sneeze.hatenablog.com

中古で、前オーナーの話では購入から10年以上経過しているらしいもの。その分相場より安く譲ってもらったものだ。

 

しかし、いざ鳴らしてみると、女性ボーカルの一部の音域が引っ込んで聴こえたり、ガヤガヤして聴き疲れしたりで、結局ひと月で手放してしまった。そこから3WAYスピーカーに苦手意識が芽生えた。

 

ただ、ほかのスピーカーをメンテナンスしていくうちに、実は自分の入手した機体がたまたまおかしかったんじゃないか、と思うようになった。

比較的新しい、20年くらい前のスピーカーでさえ、ネットワークに使われているコンデンサーは劣化して静電容量が狂っていた。4312Mは3WAYだ。再生周波数のクロスオーバーが増える分、容量変化に敏感なはず。当時と違い、今は修理できる設備があるので、おかしい箇所はある程度なら修復できる。

 

というわけで、自分の勘が当たっているか確認すべく、オークションサイトで安く入手できないか狙っていたら、先日ようやく落札できたのである。

 

改修前の音

さて、手元にあるのは、外観が若干色褪せているものの傷は少ない「4312M II BK」。

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JBL 4312M II BK

 

いつものように、YAMAHAのAVレシーバー「RX-S602」に繋いで聴いてみる。

すると、女性ボーカルには以前ほどの違和感が少ないながらも、しばらく聴いていると疲れてはくる。いろんな音が鳴っているけど、まとまりがない感じ。前面パネルに付いているアッテネーターを弄っても変わらない。

「まあ、こんなものか」といったところ。

 

分解、換装

分解してみる。

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サランネットを外した状態

このスピーカー、中古とはいえ自分にとってはかなり高価な部類なので、手を入れるには清水の舞台から飛び降りる気概が必要。

スピーカーユニットの脱着

ウーファー、ミッドレンジ、ツイーター各ユニットは、エンクロージャーにプラスネジで4点ずつ留まっている。ドライバーで外していくだけ。

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上からウーファー、ミッドレンジ、ツイーターユニット

バインディングポストの脱着

ウーファーの真後ろにバインディングポストがある。ポストのすぐ横に、ウーファー用のコイルが接着剤でくっついている。

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ウーファーの孔から覗いたところ

これらは、エンクロージャー背面で同じようにプラスネジで留まっている。外して、引き抜く。

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内部にアクセスしやすい構造で助かる

ここまでは、一般的なスピーカーと手順が一緒。

問題は前面右上の二つのアッテネーターを含めたネットワーク基板の取り出しである。

ネットワーク基板の脱着

基板は筐体右上にある。こちらもプラスネジ2本のみで内部で宙に浮くように留まっているけど、ネジ自体は銘板の後ろに隠れている。

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わずかに見える基板

銘板は薄い樹脂製で、両面テープのようなものでピッタリくっついている。極小のマイナスドライバーや錐、ヘラなどを駆使し、隅から慎重にゆっくり剥がしていく。

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これがやりたくなくて、分解作業を躊躇していた

幸いにも、銘板は弾性範囲が広く、緩やかに曲げる程度ならば表面に傷はつかない。鋭利な工具で銘板を突いたり折り目が付くと原状復旧の際に美しく収まらないので、とにかくゆっくり、古い両面テープ状のものを取り除きながらネジの頭が覗くまで剥がしていく。

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メンテナンスを前提に作られていないのだろうか

なお、復旧時の貼り付けには、例のごとくスーパーXを薄く伸ばした。

メンテナンスしやすいよう、ネジ穴の部分だけ銘板を取り除く処置も考えたけど、今回は仕上がりを重視して既存と同等に戻すことにした。

 

ネジを外し、ウーファーの孔から手を突っ込んで、基板を取り出す。

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4312M II のネットワーク基板

大きなロータリースイッチとセメント抵抗、小さなコンデンサーが6つもある、独特の配置。

ウーファーは先のとおりコイル単発のみで、この基板を通らない。

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基板裏面

ツイーターには4Ω、1.7Ωとスルー、ミッドレンジに4Ω、7.3Ω、10Ωの抵抗器が用意され、そこに各々小容量の電解コンデンサーと直列接続し、回路を形成。それをロータリースイッチで切り替えて、各ユニットのボリューム調整をする仕組み。

 

よく見たら、別個の回路上にある二つの抵抗器の脚が物理的に接触していた。造りは結構いい加減である。

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雑だな……

インターネット上の先駆者様には、回路上の余計な抵抗や接点増加を避けるため、ロータリースイッチを基板ごと取り払ってしまう改造方法を採られているのを見かける。個人的には、改造するにしても現状のブラッシュアップが好みで、もともと持ち合わせている機能を取り除くことは趣味でない。だけど、このなんとも粗末な基板を見てしまうと、たしかにここに電気信号を潜らせたくない気持ちもわかる。

 

どうしたものかと考えた末、当初の目論見通り基板は再使用とし、アッテネーター機能も残すことにした。

コンデンサーの交換

ネットワーク基板上の6つの電解コンデンサーは、計測すると容量がどれも1から2割ほど増えていた。これらをフィルムコンデンサーに換装する。

ケースサイズはすべて同じだけど、回路ごとに静電容量が異なる。値は写真のとおり。

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単位はμF

今回用意したのは、秋葉原秋月電子通商で手に入れたFaithful Link社製メタライズドポリエステルフィルムコンデンサー。

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Faithful Link メタライズドポリエステルフィルムコンデンサ

定格電圧100V、小型かつ安価で、ネットワーク上の電解コンデンサーの代替には打って付け。

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ジャストフィット

1.4μFには1.5μFをあてがい、2μFには1μFを二つ並列接続させる。

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2.2μFが売っていなかったので、1.0x2で対処

ツマミの交換

改造後も中音高音の音量調整ができるようロータリースイッチは残す。

その代わり、切り替え動作が固くかつ表面がツルツルしてとにかく扱いづらいアッテネーターのツマミを、アルミ削り出しのものに換装することにした。

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回転が固いロータリースイッチ

ちょうどよいサイズのツマミをAliExpressで探し発見。径12.5mm、5個セットで1,200円くらい。

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左が総アルミ製ツマミ

既存の樹脂ツマミはスイッチシャフトに刺さっているだけだけど、そこそこ強固に嵌っている。先の細い工具を根元に挿し込み、てこの原理で持ち上げるように引き抜く。

 

新しいツマミはイモネジで固定するタイプ。今回購入したセットに、専用の六角レンチが付いていたので、ありがたく使わせてもらう。

ローレット加工されていて、指で摘まみやすいのがよい。

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既存のツマミ、少しテーパーまでつけられていたのか

内部配線の引き換え

ついでに、内部のケーブルも新調しておく。

既存のノーマルなPVCケーブルから、OFCスピーカーケーブルに引き換える。カーオーディオ用に設計された、径の細いケーブルが便利。

なお、このスピーカーはミッドレンジが逆相であることに注意。

 

バインディングポストは、分解して腐食が無いのを確認し、クロスで磨き上げる程度に留める。

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ここは、新しくしてもよかったかもしれない

これらの作業を、もう片方にも施す。

 

改修後の音

復旧後、同じアンプに接続し、50時間程度鳴らしたところの音の感覚。アッテネーターはすべて中間位置。

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アルミのツマミ。イイ感じ

改修前に気になっていた点すべてが、面白いほど無くなっていた。

各ユニットの繋がりが良くなり、違和感が消えた。

特に中音域の定位感が上がり、リアリティが格段に増した。高音は良く伸び艶やか。嫌味がなく心地よい。

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別格と言っていい

改修前では男性ボーカルと比べて女性ボーカルが細く、一部の周波数帯でザラザラしたり引っ込んだりしていたけど、それらが無くなって安定して聴こえるようになった。

 

まとまりのない騒々しい音は一切出てこない。この状態になってはじめて、情報量の多さやパースを素直に感じ取ることができて、感動ものだ。もちろん、聴き疲れもしない。

 

まとめ

やはりフィルムコンデンサー化による出音の変化が影響しているのだろう。とはいえ、高能率で晴れやかなのはオリジナルのまま。元の性格を崩すことなく改造できたのはよかった。

 

ただ、ネットワーク基板まで手を入れるとなると、他のスピーカーよりも手間暇がかかるのも事実。"顔"ともいえる銘板の着脱にかなり気を遣った。もう一工夫して、作業の安全性と仕上がりを向上させたいところ。

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透明感はないけど、間違いなくHiFiスピーカーである

自分にとってこのスピーカーは、改修ありきのものだったようだ。むしろ、ここまでしてようやく本領発揮したのではないかとも思える。

評価を改めなければならない。

 

終。

 

 

(以下資料)

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