いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

JBL CAS-33 の音を改善してみる

JBLのアクティブスピーカー「CAS-33」を改良し、出音のバランスを整えた。その所感。

導入の動機

以前、JBLPebbles」の代替スピーカーを探していた際に発見したのがCAS-33である。

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そのとき代替候補としなかったのは、USB接続でないから。このスピーカーは、ACアダプター駆動である。

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やたら重くてゴツイ専用のACアダプター
ただ、サイズ感やデザインは好みで、発売当時20,000円という、パソコンの横に置くアクティブスピーカーとしては高価なものだったこともあり、気になってはいた。
最近は動作品の中古で4,000円くらいから出回っているのに気づき、手にした次第である。
 

噂と実際

CAS-33の出音について、インターネット上にある感想で多く見受けられるものとして、「過剰な低音」がある。低音がズンズン出るスピーカーの存在は知っている。ただ、CAS-33は小型だ。Pebblesと並べてみると、高さ以外はほぼ同等である。

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Pebblesと並ぶCAS-33
背面にバスレフポートがあるとはいえ、本当に低音重視なのかちょっと疑問だった。

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CAS-33の背面
しかし、鳴らせば納得、自らの出音に耐えきれず筐体がビビって動き出すほどの低音だった。
とにかく低音域が目立ってしまって、ほかの音域が覆われてオマケみたいな扱いになっている。現行機種である同じくJBLの「Quantum Duo」と似た傾向の音だ。

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4,000円程度ならいざ知らず、20,000円まで出せるなら、素直に大手メーカーのAVレシーバーセットを購入したほうがいいだろう。そんな音。

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振動で徐々にズレたであろうゴム脚

分解

不自然なまでに出てくる低音の原因は何なのか。スピーカーの中身を見てみることにした。
 
筐体自体は背面から6本のネジで留まっているだけ。外すと、前面パネルとその他が分離する。

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前面パネルが離れたところ
ただし、基板は背面と筐体内部でさらにネジ留めされている。いずれもプラスネジだけど、内部のネジを回すにはやや長尺のドライバー必要となるだろう。

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背面内側にもネジがある
ネジを外し、ケーブル二組を引っこ抜いてから、中身を引っ張り出す。
すると、3面をアルミプレートで囲われた基板が現れる。

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R側内部の基板。アルミは防磁とヒートシンクを兼ねているっぽい
一部のパーツは接着剤で完全に埋まっていて見えないけど、6,000円のスピーカーとはひと目見て造りが違うことくらいはわかる。
 
使われているパワーアンプは、STマイクロの「STA540SA」というAB級オーディオアンプ。アルミプレートに付いている。

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パワーアンプ「STA540SA」
隣には「PT2256V-D」というIC。これはボリュームコントローラーなるものらしい。

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ボリュームコントローラー「PT2256V-D」
それと、アンプ前段増幅用だろうか、「4558C」と印字されたオペアンプがある。

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STマイクロ製って初めて見た……
そのほか、電解コンデンサーや苔色のシースのフィルムコンデンサーがたくさん並んでいるけど、目で追える範囲では入力された音を直接調整しているようには見えない。かといってパワーアンプのIC側でイコライジング的なことをしているとも思えない。
 
この中で怪しいのはひとつ。ボリュームコントローラーである。
 

改造

基板の改修

インターネットで検索してPT2256Vのデータシートを見てみると、「ラウドネス機能」というものを発見。ラウドネス機能とは何ぞやと思い調べてみると、どうやら小音量時でも音の量感を保つため、低音と高音を持ち上げたり中音域を下げたりする機能らしい。

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データシートより
低音過剰問題、十中八九これが原因だろう。
ということで、この機能をオフにしてみることにした。
 
幸いにも、ボリュームコントローラーから伸びているフィルムコンデンサーと抵抗器をいくつか取り除いて、所定の抵抗器を左右ひとつずつ付けるだけなので、自分でもなんとかなりそうだ。

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上:ラウドネス機能併用 下:ラウドネス機能オフ
基板からコンデンサーと抵抗器を計8つ取り除く。対象は、「C36」「C37」「C38」「C39」「R5」「R7」「R31」「R32」。
 
はんだ吸取線で既存のはんだを除去したら、見事に銅箔が剥がれた。さすがに無理があったか。

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簡単に剥げてしまった
新たに取り付ける抵抗器は、はんだ面に乗せることになった。3.9kΩを2つ。

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抵抗器を取り付けたところ
これでラウドネス機能は使用されなくなったはず。
とりあえず音を出してみると、一応問題は無さそう。一安心。
 

コンデンサーの追加

これで目的を果たしたことになるけど、もうひとつ気になる点を見つけたので、そちらにも手を付ける。
ツイーターHPF用のコンデンサー容量の増設である。
 
CAS-33は2WAYスピーカーではあるけどネットワーク基板がなく、スルーのフルレンジユニットからツイーターまで1μFの電解コンデンサーが渡っているだけである。

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ツイーターに渡らせた電解コンデンサ
音声出力周りはもう少ししっかり造り込んでほしい気持ちもあるけど、それよりまず、フルレンジの高音域を補填するにしても、1μFは小さすぎる。ツイーター、ほとんど鳴ってないんじゃないか?
 
そこに、別の改造に使う予定で購入して結局使わず仕舞いの2.2μFセラミックコンデンサーが手元にあったので、これを合成付加してみた。
セラコンは通常使わないけど、今回にいたってはないよりマシでしょ、くらいのつもりで。

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既存と同じようにはんだ付け
ツイーターのインピーダンスが8Ωなので、これで計算上は、クロス周波数がだいたい6kHzの6dB/octとなるはず。
 
同じことをL側スピーカーにも施し、作業完了。
 

音の変化

改造後の音の変化は動画のとおり。
再生は、USB-DAC「FX-AUDIO FX-04J+」からRCA接続とした。

ラウドネス機能オフ状態

思惑通り、中音域が聴こえるようになって、違和感が減少した。これが、このスピーカーの本来の音だろう。
ただ、低音は相変わらずよく聴こえてくる。バスレフのパイプをカットし短くしてみたいところ。
 

コンデンサー追加状態

上記に加えてコンデンサーの容量を増やした状態では、埋もれていた高音域が表出したかのように、よりバランスが取れた音となった。というか、もはや別モノになってしまったといえる。
倍音成分の付加により、中音域の音もより明確になり見通しが良くなった。
 

疑問とまとめ

改造であからさまに音が変化したのは面白いのだけど、疑問も残る。なんでこんな設計をしたのか。
 
わざわざ必要なパーツを配してON状態にさせていたラウドネス機能。だけどこのスピーカーに関していえば、素の状態でも結構な量の低音が出てくるため、それほど必要性は感じない。むしろほかの音域が低音に押し潰されて逆効果である。
 
また、それに付随して、デフォルトではツイーターがほとんど機能していなかったのも腑に落ちない。ラウドネス機能を使うくらい量感に気を遣うわりには、高音の出音をわざわざ抑えるようなことしている。ユニット保護のために1μFのコンデンサーが必要なツイーターなんてあるのだろうか。スーパーツイーターならいざ知らず、乗っているのはありふれたドームツイーターに見えるけど……。

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質感はチープだけどシンプルなデザインで、結構好き
音作りとして理解しがたい部分はあるけど、手を加えたことで音の質は良い方向に変化したと思う。この小さな体積に見合わない色艶と張りが出て、ポテンシャルを引き出せたといえるのではないか。
 
ただ、未改造ならば数千円のスピーカーと同レベルの音だし、それなりの音で聴こうとすればRCA対応のオーディオデバイスが別途必要になるので、今更10年以上前のスピーカーをわざわざ中古で手にする理由は無さそう。
 
終。
 
(以下資料)

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