いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

Technics SB-F08 をメンテナンスしてみる

40年前の国産スピーカー「Technics SB-F08」を入手し、メンテナンスをした内容の覚書。

morning-sneeze.hatenablog.com

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入手の動機

完全に「見た目が好みだった」のである。
この製品、1981年発売のパッシブスピーカーらしい。しかし、現行製品に紛れて並んでいても全然違和感がないほど、モダンなデザインをしている。デスクトップスピーカーとして使うとカッコ良さそうだと思ったのだ。

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普通にカッコイイんだよな……
また、このスピーカーは、シリーズでは安価なモデルながらホーンツイーターを備えている。国産ホーンツイーターはどんな音がするのか、聴いてみたかったのもある。
 

音出し(改修前)

動作品を送料込みで3,000円弱で入手。レッドカラーは数が少なく、若干レアらしい。

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さすがに外観はくたびれているけど、ちゃんと音が出る
メインで使用しているAVレシーバー「YAMAHA RX-S602」に繋いで鳴らしてみる。 すると、ものすごい量感の高音が飛び出してきた。
このスピーカーは、前面パネルにツイーター用のアッテネーターが付いている。デフォルトは12時方向みたいだけど、それだと11段階中の10段目。かなり高め。
いろいろ聴き比べながら、最終的に9時方向(7段目)の位置で落ち着いた。それでも、曲調によっては6時方向(4段目)でも十分な量の高音が出る。
 
音の質としては、能率が高く元気だけど全体的にザラザラしていて、繊細とは真逆の位置にいる音。
定位と音場は普通。前面に押し出すような音だけど、立体感はあまりない。ラジカセみたいな音。
 
とにかく高音域が強く、ボーカルにまで被って声をかき消してくるほど。反面、低音域が全然出てこない。
再生周波数帯域の下は50Hzとなっているけど、聴感的には200Hz以下が尻すぼみしていく感じ。ベースもスカスカなら、バスドラは存在すら怪しいほどにしか聞こえてこない。
かといってウーファーのエッジが破れているわけでもなし、左右で鳴り方が異なるわけでもない。いくら鳴らし続けても、詰まったような違和感のある音しか出てこなかった。
 

分解

残念な結果に萎えながらも、内部のネットワークを弄ればなんとかならないかと分解してみる。
このスピーカー、筐体は前面パネルのみアルミダイキャストで、それ以外はプラスチック製である。表面の仕上げを全面同じにしてあるので外観上の違和感は無いけど、背面はいかにもプラスチックな見た目をしている。

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業務用スピーカーみたい
背面の隅6点にある穴から、長尺のプラスドライバーでネジを緩める。やたら長いプラスネジが出てきた。

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前面パネルを固定していたネジ
前面パネルとその他、つまり金属部とプラスチック部が分離する。

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分離したところ
搭載ウーファーは18cm。

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ウーファー。18PL26SA
この筐体に収めるにしては、やや大きめ。
 
ホーン型ツイーター。フレームはプラスチック製。

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ホーンツイーター。EAS-6HH06S
アッテネーター。ガリ音もなく正常動作。

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ツイーター用アッテネーター
いずれも表面的な腐食もなく、綺麗な状態だった。これらは当然再利用。
 
プラスチック側。端部には一部ひび割れが見受けられた。

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これは仕方がないか
いよいよオモチャみたいな形相の内部には、小さなネットワーク基板と吸音材。
吸音材はニードルフェルト。折り畳まれて筐体底部に置かれていた。

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吸音材
これがかなり埃っぽく、別のものに替えようかと思ったけど、そのままにした。あまりお金をかけたくない。
 
筐体天面部と中間それぞれに、ファイバーボードの端材のようなものを渡らせて接着剤で留めていた。

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これがまたチープな印象を一層引き立てる
補強かなとも思ったけど、底部にはない。おそらく共振対策だろう。
なんというか、ここまでするくらいなら、薄っぺらくても初めからMDFあたりで筐体を組んだほうがいい気がする。前面パネルの造形にコストをかけ過ぎたのだろうか。
 
ネットワーク基板は、回路基板というより、コイルとコンデンサーの置き場として設けられているような印象。

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ネットワーク基板
ウーファーは直列にコイルひとつだけ。
ツイーターは直列のコンデンサーと並列のコイル。
コイルは型番からしておそらくいずれも0.22mH。
 
各ユニットから帰ってきたマイナス側はここを通らず、ウーファーの端子台からケーブルターミナルまで直接配線していた。
また、プラス側はネットワーク回路に到達する前に、過入力保護用のサーマルリレーを噛ましている。

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サーマルリレー「SSBS10AB02-1」。詳細不明
 

改修

何はともあれ、まずはネットワークから。
 
サーマルリレーは取り除き、スピーカーターミナルからネットワーク基板までバイパス。
 
ツイーターHPF用の電解コンデンサーの静電容量を計測すると、大幅に増えていた。規定は3.9μFに対し、一方は7.3μF、他方はなんと9.0μFを超えていた。

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容量が「増える」ってどういう原理なんだろう……
この測定値が間違いなければ、改修前はクロスオーバー周波数がだいぶ下がっていたはずである。ボーカルに被るほど高音域がやたら主張してきたのは、これが原因だったのかもしれない。
 
新たに付けるコンデンサーは、同容量のJantzenAudio製メタライズドポリエステルフィルムコンデンサー「MKTCap」シリーズとした。

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コイズミ無線で購入
チョイスの理由は小型でかつ安かったから。基板が小さいため、そこに乗せられるフィルムコンデンサーが欲しいとなると、これしかなかった。
 
脚を適当にフォーミングし、基板のはんだ面にホットボンドで無理やり固定。はんだ付けする。

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ホットボンド、便利すぎる
コイルは既存再利用。
 
初めはウーファーのマイナス側端子にツイーターのマイナス線が繋がっているのが気持ち悪くて、すべてネットワーク基板側に配線し直すつもりでいたけど、面倒くさくなって止めた。

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既存配線。緑がスピーカーターミナルへ。黒と茶がツイーターのマイナス側
むしろ逆に、基板側は完全にコンデンサーとコイルの置き場に徹してもらって、なるべく基板の銅箔を信号が通らないように配線した。

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コイルのエナメルが剥げている根元を狙って、無理やりはんだ付け
 
既存のスピーカーターミナルがとんでもなく扱いづらいので、バナナプラグ対応のバインディングポストに換装する。

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既存のスピーカーターミナル
以前ヤマハのテンモニを改修したときと同じように、筐体の表と裏にワッシャーを挟んで固定。その上ではんだ付けとホットボンドで補強。

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筐体内部側。ここにはんだとホットボンドを流した

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なんとか形にはなった。
ここまで作業してから、音を出してみる。問題なし。
 
底部にある四つ脚に使われているフェルトを、グリップ力のある樹脂製の戸当たりに交換する。径は13.5mm。

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最近、この透明の戸当たりをインシュレーターにするのがお気に入り
フェルトは両面テープでくっついていただけだけど、筐体側に小さな空間があってそのまま接着しても剥がれやすそうだったので、ホットボンドで埋めてから貼り付けた。
 
ユニット類を固定しているネジの増し締めをしてから、筐体を元に戻す。
その際に、前面パネルとプラスチック筐体の接合部にグルリと一周ホットボンドを薄く塗ってから、ネジで固定した。接着目的ではなく、遊びを少なくしてキャビネット自体の密閉度を上げ、少しでもバスレフポートの効能を上げたかったためだ。
 
これで片方終了。同じことを、もう片方にも行う。

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完成!

音出し(改修後)

再びAVレシーバーに繋ぎ音を出してみると、まるで別のスピーカーかのような変貌ぶりだった。

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花こう岩プレートの上に置いている
まず、低音が出るようになった。
「出る」といってもガンガン鳴り響く感じではなく、密閉型スピーカーのようなタイトで控えめな感じ。それでも、改修前とは比較にならない。
全然聴こえなかったバスドラはちゃんと「ドン」という胴鳴りまで鳴るようになったし、ベースもアタックは弱いけど粒感が戻ってきた。
前面のバスレフポートを塞ぐと低音がわずかに引っ込むので、一応はバスレフの効果があるようだ。
 
とはいえ今回の作業では、ネットワーク上でウーファーの出音に関する部分は弄っていない。せいぜいネジの増し締めくらいだ。
では、なぜ音が変わったのか。考えられるのは、ネットワーク基板の頭に付いていたサーマルリレーのバイパスだ。
リレーの性質がわからないので何とも言い難いのだけど、低音域の周波数帯にかかるHPFとして働いていた可能性が高い。
 
試しに、別のスピーカーにこのリレーを挟んでみたところ、見事に音が曇った。

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キミが犯人か
不自然な音の原因は、ほぼ、このサーマルリレーということになりそう。
 
また、高音域は大人しくなった。
こちらは、むしろ出過ぎていて暴れていた。コンデンサーの交換で本来の性能に戻ったと見るべきだろう。デフォルトではキツ過ぎて絞っていたアッテネーターも、元に戻してもそこそこ聴けるようになった。

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それでも好みは9時方向
それでも、高音域がハッキリ聴こえる音調は、改修前から変わっていない。ホーンツイーターの特徴なのだろう。
 
あとは、高低音それぞれのバランスが整ったからか、ザラついた雰囲気が若干改善された。依然繊細さには欠けるものの、中音域の見通しが良くなり、少し垢抜けた印象。チープさは減退した。
これならば長時間聴いていられる。
 
ちなみに、せっかく透明樹脂製の脚に替えたのに、黒檀サイコロ3点支持のほうが音の定位が良かったので、使わず仕舞いとなっている。

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前2個は、筐体ではなく前面パネルの下に敷いている

 

まとめ

このスピーカー、インターネット上では低音不足を指摘しているレビューを見かけるけど、それは保護回路が邪魔をしていたためで、本来の信号をそのままネットワークに突っ込んでやれば割としっかり鳴ることがわかった。
低音を強調するため、バスレフポートのパイプ延長も考えていたけど、ちょうど良さそうな部材が手に入らなかったので、今回はあきらめていた。ただ、それもわざわざする必要ないかなと思うくらいに改善したのでよかった。
 
現代的なHifiサウンドでは決してないけれど、ボーカル表現に重きを置きたい用途や高音特化の曲調を気持ちよく聴きたい場合によく合うと思う。
 
どうせ改修しても音は改善しないだろうと思っていたので、結果に満足。しばらく聴き続けることにする。

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何より、カッコいいしな
終。
 

(以下資料)f:id:morning-sneeze:20211004173157j:plain

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