いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

USB-DACのオペアンプを交換してみる

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安価なUSB-DACオペアンプを交換して、好みの音を探す試みをしてみた。その所感。
一部を除き、スピーカーからの出音を空気録音した動画をアップロードしている。なんとなくではあるけれど、実際の音はそちらで確認できる。


www.youtube.com


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DAC導入の経緯

とあるアクティブスピーカーを使いたいけどオーディオインターフェースがなかったので、とりあえずAmazonで見つけた小型USB-DAC「FX-AUDIO- FX-04J+」を導入。

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小さい
それまでは、このテのDACの存在を知らなくて、スピーカーを鳴らすためだけにいわゆる弁当箱型のオーディオインターフェースを設けないといけないのかと、導入を躊躇していた。しかし、小型の安いデジタルアンプをAmazonで検索しているうちに、機能が単一化された至ってシンプルなDACの存在を知ったのである。

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スピーカースタンドの横に仮置きしている
このFX-04J+はUSBケーブル一本で駆動するバスパワー仕様なので、机周りをスッキリできそうだと思ったのも購入理由の一つ。
実は同様の製品でもっと安価なものもあるのだけど、FX-04J+は内蔵オペアンプが容易に交換できるDIPソケットになっている。製品保証を破って分解し、音色の変化を楽しむことができるということで、電気回路には明るくないのに試してみたのである。

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六角穴のネジ4点を外して、基板を引き出すだけ
 

電気ド素人

それまで、オペアンプの交換で音が変わるという言説を、あまり信用していなかった。インターネットで検索すると、ヘッドホンアンプなんかのオペアンプをひとつ換装するだけでまるで別モノになるかのような音質変化を遂げているレポを大量に見かける。そんな馬鹿なと思いつつ、実際に試す機会もなかった。今回、そのモヤっとした部分を解決できるわけだ。
 
とはいえ、何も知識も無しにするのも気が引ける。中学だったか高校だったかで習った古の電気の知識くらいは思い出しておこう、くらいの感覚で少しだけ予習。基本的過ぎて、あまり役立った気はしないのだけれど。
 
このDACは、左右独立のLPF回路部と差動変換部の計3か所にDIPオペアンプを使っていて、ソケット式なので工具を使えば簡単に引っこ抜ける。
工具があると便利なのだけど、自分の場合はホットスワップ対応のメカニカルキーボードのキースイッチを引き抜くプーラーが流用できる。工具を新たに用意する必要がないのだ。小さなラッキー。たまたまだけど。
数百円で買えるこのプーラー、元来基板からIC部材を引き抜くのに使用するものみたいなので、むしろ今回が本来の使い道となるのかもしれない。
 
気になっていたのは、LPF回路と差動変換部、どちらを交換するとどのように変化するのか、である。オペアンプのデータシートやら、基板の回路やらを読み取る技術がない自分にとっては、破壊覚悟で実物の交換をするしかない。
 

TL072CP/スピーカー

さて、工場出荷品には、3か所すべてに「TL072CP (Texas Instruments)」が搭載されている。オーディオ用としては割と定番のオペアンプらしい。

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真ん中が差動変換、その左右がLPF
スピーカーとの相性もあるだろうけど、中音域の曇った感じが気になっていた。オペアンプ交換で多少なりとも解消できるといいな、という期待もあった。
以下に記載する音に関する文言は、基本的にこのデフォルト状態の出音と比較した場合のものである。
 
用意したオペアンプは、ひとつ1,000円以下のもので揃えた。3,000円や5,000円する高級品を使ってもみたいけれど、4,780円のバスパワーDACには不釣り合いな気がしたのと、そもそもこのDACにそこまで予算を投入したくなかった。パソコン用オーディオとしてあくまでも安価に導入できて、かつ最小限のお金と労力でどの程度音を変えられるのかを確認したかったのだ。
高級オーディオを目指すわけでもなく、専門的な知識なしの実験的な作業にレジェンド級の代物を扱うのも、気が引けるのだった。
 
共通事項として、スピーカーはJBLの「104-BT」。入力の設定は「RCA」。

オペアンプの交換

というわけで、インターネット上の先駆者様の情報をもとに、まず用意したオペアンプは次の通り。
 
※金額は、入手時の価格

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一番右のヤツは、今回使っていない

入手には通販の利用や、秋葉原に赴いたときにパーツショップで購入。
上記の中ではLME49720NAが一番高価。界隈ではよく目にする名で、今回は店頭で買ったものだけど、製造自体は終了しているらしく、入手できるのはおそらく流通分のみだと思われる。
ちなみにLF412CNも同様に製造終了品。

LF412CN

まず試したのが、LPF2つをLF412CNに交換。
このオペアンプを選んだのはかなり適当で、TL072CPの置き換えに使われるという情報がいくつかあったことと、安かったから。
しかし結果は、音が全体的に痩せてしまった。小音量で聴いても「ちょっと大人しくなったな」と感じるくらい。
差動変換側を乗せ換えてみても、LPFほどではないにしろ同じ傾向だった。

LME49720NA/TL072CP

次は、LPF2つをLME49720NAに交換。差動変換はTL072CPのまま。
調べた限り、割と評判が良さそうなLME49720NA。HiFiな音になるらしい。
結果、中高音が上がって、低域がスッキリした。TL072CPが比較的低音域に量感があるので、それが引っ込んで平滑になった印象。1kHz近辺が持ち上がったのか、女性ボーカルやエレキギターが前に出てくるようになった。
巷で言われている通り、たしかにこちらのほうが周波数特性的にフラットでバランスが良い気がする。
LPFをTL072CPに戻し、差動変換側を交換すると、前述の特色がやや減少するも、TL072CPにあるノイジーな感じが無くなり、聴きやすくはなった。
 
ここまで比べてみて気付いたのが、どうやら音の変化に比較的影響があるのはLPF回路側のオペアンプのようだということ。それまでは感覚的に、一定の周波数帯を減衰(通過)させるよりも、バランス出力をアンバランスに変換する回路のほうに、音の変化の余地があるのだろうと思っていた。
ただ、なんにせよ相変わらずその原理は理解できていない。なんでだろう。
 
LME49720NAをLPF回路に配した際の音が気に入ったので、以下はLPFをLME49720NA固定で差動変換部のオペアンプを換装したケースが占める。

LME49720NAのみ

3つすべてLME49720NAにすると、空間の広がりを感じ、より繊細になる。ただし、ソースによっては高音が若干煩く感じることがあったことと、寒色であるが故低音域もそこそこになるので、打ち込み系のようなノリの良い曲には不向きの音色かもしれない。

OP275GP

LPF2つをLME49720NAのまま、差動変換側をOP275GPに交換。
音としてはTL072CPのブラッシュアップ版という印象。曇りが取れて粒が立ち、中音域が良く聴こえるようになった。低音域もそれなりに出ていて、ややタイト気味。高音域は変化を感じなかった。
音の変化自体は微細だけど、LME49720NAの明瞭さと、TL072CPの「塊」感を両方備えたような音。ポップス向き。

MUSES8820D

LPF2つをLME49720NA、差動変換側をMUSES8820Dに交換。
差動変換部のオペアンプの換装をしたなかで、一番音の変化が大きかった。小音量で聴いていても、「あ、ちょっと変わったな」とわかる。
3つすべてLME49720NAの時と比べると、やや低音を強調させて奥行きを感じさせる音。鳴らし方が上手いというか、一般的に良い音と評されるような、ちょっとだけ"色"を付けた感じ。あちらとは別の意味でバランスが良い。LME49720NAの音ではつまらないと感じるなら、こちらに換装するのがいいかも。ジャズと相性が良い。弦をつま弾く音がハッキリと聞こえるので気持ちが良い。
 
ここまで聴き比べてみて好みだったのは、LPF回路にLME49720NA、差動変換部にOP275GPの組み合わせだ。いわゆるカマボコで、レンジは広くはないものの中音域の分離の良さと締まった低音が安心して聴ける。
あとは、MUSES8820Dは手元にひとつしかないので確認できなかったけど、これを左右のLPF側に配した場合の音も気になってきた。
 

追加のオペアンプ

インターネットにある数多の書き込みのなかを泳いでいると、上記とはまた異なるオペアンプを試している先駆者のレビューを発見した。次の二種。
 
  • NJM2114DD (新日本無線) \100/個
  • NJM2068DD (同上) \50/個
※金額は、入手時の価格

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2114はNPN入力、2068はPNP入力
NJM2114DDは定番品。NJM2068DDは結構安価なのにアクティブフィルタ、プリアンプ向けと謳われている。

www.nisshinbo-microdevices.co.jp

しかし、こちらは換装しても、いずれもスピーカーからの出音の変化を感じられなかった。録音した音を交互に聴き比べると、LPFにNJM2068DDを配した場合に少しだけ音が下に沈むように感じる程度で、自分の聴感上では同じ音に聴こえた。
 

さらに追加のオペアンプ

中古だけど、たまたまフリマサイトで流れていたオペアンプを手に入れられたので付けてみた。
 
どちらもインターネット上では割と見かける名前。OPA2604APは、比較的最近製造を終えたらしい。

OPA2604AP

LPF2つをLME49720NA、差動変換側をOPA2604APに交換。
聴感上は厚みのある音で、聴き始めは「おおっ」となったけど、それが災いしてか低音域がややブーミーに聴こえることがあり、音像がボヤけ気味。比較的低音が目立つデフォルトのTL072CPが軽く感じるほど。
これを「暖かみがある」ととらえるかは人によるだろう。自分の場合はもうちょっとクールに鳴るほうが好みだな。
逆手にとって、低音をブリブリ唸らせたいソースにはいいかも。

LM6172IN

LPF2つをLME49720NA、差動変換側をLM6172INに交換。
LM6172INはオーディオ向けのオペアンプではないみたいだけど、クリアな音が出るとしてよく取り上げられている。
クリアというか、落ち着いた音という印象。少し高音域に寄った緩やかなカマボコ。高音の伸びが良く、聴いていて心地よい。低音はやや控えめ。LME49720NAから独特の癖を取り除いたような音。
MUSES8820Dだと元気すぎると感じるときは、こちらにするとちょうどいいかもしれない。

OPA2604AP/LM6172IN

最後に、LPF2つをOPA2604APに交換、差動変換側はLM6172INのままの場合。
差動変換側にOPA2604APを置いたときのようなボワボワした感じはないけど、聴感上は解像度や量感など工場出荷時と同等。録音した音を聴き比べて初めて、デフォルトのTL072CPよりは中音域が聴こえるようになったかな、といった感じ。
 

結局どれにするのか

まだ置き換えてみたいオペアンプはあるけど、このあたりにしておきたい。

ボヤキ

一連の作業でわかったことがいくつかある。
 
  1. このDACの場合、LPF回路用の二つのオペアンプの特性に音が強く反映される
  2. 元々搭載されているTL072CPは、決して音の悪いオペアンプではない
  3. 交換したところで、音の変化は極僅かである

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作業前から何となく察してはいたけどね
LPF用のオペアンプ一組の音をベースとして、そこに差動変換用のオペアンプで味付けをする感じ。さらにコストを削ってLPF側のみ換装すれるだけでも、一応スピーカーの出音は変化する。だけど、一部を除き大抵のオペアンプは、換装するだけでは明確な変調を感じることは困難であり、少なくとも現況のシステムの音質改善を目的とするならば、スピーカーやアンプ、DAC自体を別のものにするなどしたほうが明らかに効果がある。
 
自作プリアンプなどの設計に用いるならいざ知らず、既存製品のオペアンプの交換が意味するところは、スピーカーケーブルの引き換えや電源ノイズリダクションなどと同列の、自己の内的な拘りを実現するに留まる気がする。
要は、どんぐりの背比べ。その日の自分の体調によって、まったく同じ楽曲でも聴こえ方が異なるのと同様、「気のせい」で済ませられる程度の音の違いだ。
 
元々装着されていたオペアンプTL072CPは、それなりに年数を経たモデルではあるけど決して音が悪いわけではない。換装したほうがむしろ音が濁ってしまったり、小さくなってしまったりすることもあった。今回は端から実験のつもりで買った安いUSB-DACで、壊れること覚悟で分解したわけだけど、わざわざ製品保証を切ってまで改造する意義があるのかといわれれば、一般的に無い。

選んだ組み合わせは

それらを踏まえて、どれを選択するのかといえば、
 
  • LPFにLME49720NA
  • 差動変換にOP275GP
の組み合わせ。
音場は広くないけど、鳴り方に無理がなく音が据わっていて、長時間聴いていられるのが理由だ。
OP275GPをMUSES8820Dに換えればより音楽的に、楽しく聴かせてくれる。だけど、自分の耳にはちょっと鮮明すぎて、なんとなく聴き疲れしてくる気がした。
迷ったのがLM6172INである。こちらにすればよりフラットに、素直な音になる。嫌味の無い高音も魅力。もしOP275GPで気になることがあれば、こちらに乗り換えるかもしれない。
 

まとめ

とりあえず、手持ちのオペアンプを一通り交換できて満足。
ただ、気に入った音を見つけられたけど、これ以上別のオペアンプのストックを増やすようなことはしないだろう。こんなもんか、という感じ。
実はコンデンサの換装もしてみようかと思っていたけど、やめた。そこまでするとなると、電気設備回路の勉強を始めなければならない。オペアンプの交換ってたぶん、そこまでやって初めて、音が劇的に良くなるのだろうな。
 
5,000円弱のモバイルDACに、500円2個と250円1個のオペアンプ。工具や送料も合わせると、計7,000円くらいになる。これならもうちょっと予算を上げて、プリ内蔵のDACを買ってしまうほうがいいな。
 
モヤモヤが一つ消え去った。
 
終。
 
(以下資料)

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