夏の終わりに届いた優秀なワイヤレスメカニカルキーボード「Keychron K8」をさらにグレードアップさせるべく、少しずつ手を加えてきた。
今回の作業で、ある程度理想形に近づくことになったので、その作業内容と所感を記しておくことにした。
今回の目的は、
- タイプ時に本体から発せられる不快な反響音の除去
- 打鍵音自体の改善
である。
耳に残る不快な音を取り除いて、好みの打鍵音にしようというのが狙いだ。
インターネット上で集めた情報から、自分にもできそうな作業内容をひと通り試してみることにした。
ケースにEVAを仕込む
まずは、ケースの改良から。
キーキャップをK8付属のプーラーで引っこ抜く。
既存のキースイッチは、リニアタイプである赤軸を中心に交換済み。一連の最後に、これらをさらに軽量なキースイッチに交換していく。
プレートは12か所小型のネジで固定されている。
ネジは1種類のみで、手元にあったプラスドライバーで問題なく回せた。
キースイッチが付いたまま外そうとしたけれど、数か所のネジはキースイッチを外してからでないと回せない。
とりあえずキースイッチも全部引っこ抜く。
この時いつも思うけど、同じ種類のキースイッチでも刺さっている場所によって引き抜きやすいものとなかなか抜けないものがあるのはどうしてだろう。
この状態で、指でケースを叩いてみる。
キースイッチが付いた状態では、叩くと「キーン」という金属的な残響音が出た。しかし、この状態だとそれがない。
つまり、以前はケースの箱鳴りだと思っていた不快な音は、キースイッチ内部のスプリングノイズであることが確定した。
この時点でこれから行う作業の必要性は薄れたけど、一応やっていくことにした。
ネジをすべて取り外し、プレートを持ち上げる。
意外にも、プレートは金属製だった。表面はアルマイト加工のような処理がされているけど、アルミにしては重量があるような気もする。
プレートの下のPCBは、ケースに乗っかっているだけ。
逆さまにすれば、そのままケースから外せる。
ただし、内蔵バッテリーはケース側に付いていてPCBとケーブルでつながれているため、完全に分離するにはPCB側のコネクターからケーブルを引き抜く必要がある。
ケースの底にあるバッテリーは、両面テープで固定されていた。
内部は、底部を持ち上げる脚が収納される部分以外はスカスカである。この空間が打鍵時の反響音の原因ではないかと疑っていた。
空間の高さは、最下行側で8mm、最上行側で14mm程度。ここを、適当な資材で埋めていく。ケースの密度を上げることで箱鳴りを抑えるのが狙い。
バッテリー本体上部には透明な樹脂製のシートが貼ってある。PCBとの絶縁を狙っているのだろうか。
バッテリー本体の熱がこもるような気がしたので取り除いてもよかったけど、今回はそのままにした。
この部分には何も乗せないほうがよいかもしれない。
空間に充填する資材は絶縁体であれば何でもいいのだろうけど、今回はEVAシートにしてみた。
東急ハンズで適当に仕入れた。厚さ2mm。
これを適当なサイズに切り出し、ケース内部に詰め込んでいく。
一応、シートの固定用にアクリル粘着の両面テープも用意していたけど、EVAシートにはうまく貼り付かなかったため、単純に乗せただけとなった。結果的に問題はなかった。
PCBを乗せた際に干渉しないように、バランスよくEVAシートを配置する。このとき、バッテリーケーブルを埋めてしまわないよう注意する必要がある。
シートではなく、綿状の物質のほうが作業が容易だっただろう。
ただ、このあたりは最終的に完全に見えなくなるので、だいぶ大雑把に作業した。
うまいこと配置できたら、元に戻していく。
ケースにPCBを乗せる。
ケース左側にスイッチ類があるので、そちら側を合わせてから乗せるとやりやすい。
より堅牢にしたかったので、ケース内部側面とPCBの縁の隙間に、余ったEVAを短冊状に切って挟んでおいた。
ただ、この部分は挟むだけでなく、ケース側に固定をしておくべきだったかもしれない。そのうち外れそう。
プレートを被せて、ケース内部の作業は終了。
スタビライザーの改良
次に、スタビライザーの改良を行う。
スタビライザー本体の一部には、すでにグリスが塗られていた。今回は、これを手持ちのグリスで入念に塗り替えることにした。
プレートから取り外したあと、すべて分解してグリスを拭き取る。
既存のグリス除去には超音波洗浄をかけるのがベストなのだろうけど、用意が面倒くさかったのでウェットティッシュで拭き取ることにした。たまたまアルコール未含有のウェットシートがあったので、それを使った。
樹脂にアルコールを触れさせたくなかったのでアルコール未含有のものを使用したけど、一瞬拭き取るだけだから、そこまでシビアになる必要はないと思う。
新規に塗る潤滑剤は、タミヤのFグリスにした。
フッ素配合グリスにしては安いし、入手性が高い。試しに使ってみたけど、とりあえずは問題なさそう。
塗布には筆を使わず、すべてマイクロアプリケーターで行った。
細かい箇所に塗り込みやすいのもあるけど、それよりも塗り過ぎを防げるのがよい。
キースイッチの潤滑化の際に実感したけど、特に「Krytox GPL 205 G0」は塗り過ぎるとむしろ逆効果なので、極少量をすくい上げられるマイクロアプリケーターがベターだ。筆だと、小型のものでもそのあたりの扱いが難しいと感じた。
グリスは、金属バーと樹脂が接触する部分に念入りに塗る。この部分からの出音がかなり大きいからだ。
あとは、可動域に適当に塗っておいた。
プレート側にも手を加える。
スタビライザーが収まる箇所に絆創膏の不織布を挟むことで、打鍵音を小さくさせるというもの。YouTubeで紹介されていたのでやってみた。
しかし、結果は振るわなかった。あえてする必要がない作業だったけど、一応記しておく。
絆創膏のテープ部分を細かく切り出し、プレートの表面、スタビライザー本体が収まる下側に張り付ける。
このワザ、実際にやってみたところ、打鍵音の改善は実感できなかった。
そもそも、未加工の状態でスタビライザー自体がプレートにかっちり収まっており、絆創膏を挟む余地がない。スタビライザーがグラついている場合には効果がありそうだけど、異常がなければこの作業はおそらく無意味だ。
これをするくらいなら、潤滑剤の塗布に時間を費やすべきだ。
キースイッチの「Lube」と「Film」
最後に、キースイッチを取り付ける。
今回は、新たに購入したキースイッチに、いわゆる「Lube」を施してからプレートに装着していった。
使用した潤滑剤はすべて「Krytox GPL 205 G0」。
内部のスプリングには「GPL 105」が定番だけど、いちいち塗り分けるのが面倒だったので、すべての箇所に205を使用した。
キースイッチのLubeは今回が初めてだったので、手始めに安価なGateronスイッチを練習台にしてみた。
スタビライザーの際と同様に、マイクロアプリケーターで塗っていく。
スプリングとハウジングが当たる部分は少し多めに、そのほかの摩擦部には一見塗布されているのかわからないくらいに薄く塗る。
スタビライザーと異なるのは、とにかく「極少量を極薄く塗る」点。
樹脂製のステムやハウジングの表面に塗膜が張ったように見えるほど塗ってしまうと、かえって可動が滞ってしまう。量の感覚をつかむ必要がある。
思っていた以上に神経を使う作業だった。
ハウジングを閉じる際、グラつき防止のフィルムシートを挟む。
トップハウジングをこじ開けると、ハウジング自体が変形して緩んでしまうことがある。フィルムシートは、その緩みを抑えるのが主目的だけど、打鍵音の静音化にも効果がある。音が少しだけ硬くなるのだ。
ある程度慣れてきたところで、今回のメインスイッチである「TTC Gold Pink」にも塗布していく。
赤軸より動作が軽い、プレルブのややマイナーなキースイッチ。
Cherry MX系スイッチだけど、ハウジングの形状が改良されており、ステムのグラつきがKailh BOXシリーズ並に小さい点が素晴らしい。
打鍵音は未潤滑でやや高音寄り。潤滑してやると「コツコツ」という静かな音に変化する。非常に聞き心地が良い。
ただ、いちいち古い潤滑剤を落とさなければならないのが手間だけど。
キースイッチの潤滑化は、とにかく時間がかかる。
K8は標準的なTKLキーボードで、キーの数は87個。キースイッチの開封からプレートの取り付けまで1個当たり5分としても、すべてのキーを終えるまで7時間以上はかかる。通常の感覚として、キーボードにここまで時間をかけるのは馬鹿げているとしか思えない。
でも、「打鍵音の改良」という観点なら、キースイッチの潤滑化は効果が絶大なので外すことはできない。好みに合わせるなら、せざるを得ないのだ。
ようやくすべて付け終える。
ホームポジションに近いキーにはTTC Gold Pink、離れていて使用頻度の比較的少ないキーにはGateron透明軸、スペースキーと矢印キーには「Tealio V2」を配置した。
キーキャップは改造前と同様のPBT製のXDAプロファイルのもの。
結果とまとめ
まったくの別物に生まれ変わった。
打鍵音は当初の予想通り、「コツコツ」という音に変化した。
金属的な「キーン」という反響音も全然聞こえない。これはLubeの恩恵が絶大といえる。スタビライザーを備えるキーも、「カチャカチャ」というチープな音は無くなった。
ただ、箱鳴りに関してはあまり改善されていないように思う。ABS製のケースでは、充填剤を敷き詰め密度を上げたところで限界があるのかもしれない。そこは、剛性の高い金属製のケースには及ばないのだろう。
あと音に関してできることといえば、ケースのゴム足を別の素材にするとか、デスクマットを敷いてその上でタイプするとか、それくらいかな。
教訓として、
- Lubeは、金属と樹脂が触れ合うところを重点的に
- 樹脂製のケースでは、音の静音化に限界がある
- 作業に膨大な時間を費やす
この記事も、改造後のK8で作成している。今のところ何も問題なく動作しており、あとは自身の手が慣れていくだけだ。
これでしばらくは、キーボードいじりから離れられるかな。